細胞外液量を保つには、水分と塩分・糖分の摂取が大事なんだね!脱水に注意が必要な薬を飲んでる患者さんに伝えてみようかな…!
お、いいね!
でも実は、過剰な水分・塩分摂取に注意が必要な場合があるんだ。これも見ていこうか。
心不全・慢性腎臓病がある場合は注意
結論からいうと、基礎疾患に心不全、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease; CKD)がある場合は、特に注意が必要です。特に心不全は体液貯留からうっ血による臓器障害を来し、命に関わるケースもあります。
問題です
なぜ問題になるかのイメージが湧くように、1つ例題を出してみます。
血漿Na濃度 140mEq/L GFR(糸球体濾過量):100mL/min の心腎機能が正常な健常人を考えます。糸球体で濾過された原尿は99%が再吸収され、1%が実際の尿として排泄されます。
1日の尿中塩分排泄量は何gになるでしょうか?
計算が少しややこしいですが、1つずつ整理していけばさほど難しくはありません。3stepに分けて考えてみます。
①1日あたりの原尿は何Lか?
GFRが100mL/minですので、1分間に100mL = 0.1Lの血液が腎臓で濾過されることとなります。
これを1日(60 × 24分)に直すと、0.1L× 60 × 24 = 144L 。腎臓は1日に144Lもの血液を濾過しています。
②1日あたりの原尿に含まれる塩分は何gか?
➀から原尿は144L/日ということが分かりました。血漿Na濃度は 140mEq/Lですので、1日の原尿中に含まれるNa量は140 × 144= 20160 mEq/日となります。
「塩分1g = Na 17mEq」ですので、
20160 mEq ÷ 17 mEq/g = 1186 gとなります。
つまり、腎臓は1日に1kg以上の塩分を濾過していることとなります。
③実際の尿中塩分排泄量(g/日)は?
②で求めた原尿中の塩分は1186g/日ですが、尿細管で99%再吸収され、実際に尿として排泄されるのは1%のみです。
従って、1186 × 1/100 = 11.86g/日
以上から、健常人では、約12gの塩分を尿中に排泄していることとなります。
あくまでこれはGFR = 100mL/minと腎機能が正常な場合に限ります。
また、腎臓が血液を濾過するためには、心臓が血液を腎臓へ送り込めていることが前提ですので、心機能が低下している場合も腎臓の機能に影響が及ぶことが想像できるでしょうか。
GFRが低下すると塩分排泄量はどうなる?
GFRが100mL/minであれば12gの塩分を尿中に排泄することができます。
ところが、心臓あるいは腎臓の機能が低下し、GFRが100→50mL/minへ半減すると、尿中塩分排泄量も半分の6gへ低下します。この状態で6g以上塩分を摂取すると体外へ排泄することができず、体内に貯留することがイメージできるでしょうか。
更に、一般に末期腎不全とされるGFR: 10mL/minの状態では、尿中塩分排泄量は正常時の1/10、1.2gまで低下しています。1.2g以下の塩分摂取で生活することはもはや不可能ですので、実際は利尿薬を使用してNaの再吸収を阻害することで腎臓をサポートしています。
心不全あるいはCKDの病態では塩分摂取量に注意が必要なイメージが湧きましたか?
実際、塩分摂取量については心不全およびCKDの治療ガイドラインで6g<日と記載がされています。しかしながら、塩分摂取量を抑えることで予後が改善したとのエビデンスは乏しいのが現状です。
日本人の塩分摂取量は他国に比べて多いことが知られています。厚生労働省より発刊されている「日本人の食事摂取基準 (2020年版)」によると、男性では11.0g、女性では9.3g/日と報告されています。
6g/日未満という塩分制限はかなり厳しい印象があります。
食物中の塩分含有量を下図に示しました。実際は食品により少し前後すると思いますが、参考にしてください。カップうどんを食べるだけで、塩分制限の6gに到達してしまうのは非常に苦しいですね。
ハンバーガーなら4ついけるじゃん…!
(^^)
塩分制限とその実際
教科書的な塩分制限の値と、それが非常に厳しい基準であることも学びました。それでは、実際はどうすればよいのでしょうか?
我々は日常臨床で遭遇する高齢者、特に病院へ入院してくる方々の多くは低栄養を合併しています。このような方々に対し、何より優先されるのは栄養状態の改善です。心不全に対する塩分制限、腎不全に対する塩分・たんぱく制限を低栄養の状態に行うと、更に低栄養を助長し、活動度を下げてしまいます。
実際、塩分制限が摂取カロリーを低下させることや、心不全患者における過度の塩分制限が腎障害や低Na血症と関連していたとの報告もあります。
もちろん末期の心不全においては塩分制限の優先度が上回ることもあります。結局は患者の状態によるのですが、基本的な考え方としては栄養状態の改善を優先すると認識しておいてください。
…余談ですが、やさしおといったものも発売されています。塩分50%カットを謳っているのですが、その分塩化カリウムで補っています。高血圧単独に対しては良いかと思いますが、CKDを合併している場合は注意が必要ですね。
ここまで塩分制限とその実際について説明しました。
水分制限はどうなの?と思われるかと思いますが、水分制限に関してのエビデンスはほとんどありません。
一般に心不全だからといって水分制限を指導する必要はありません。CKDガイドラインでは「できる限り少なく」との記載に留まっており、具体的な数字に関する言及はありません。患者によって許容域は変わるのでしょうが、極端な飲水過多(低Na血症)、不足(高Na血症)による症状(下図参照)を避けつつ、バランスが大事なのだと考えます。
塩分の摂りすぎで薬効が減弱する薬
最後に、塩分と薬剤との関連について紹介します。
降圧薬のうち、レニンーアンジオテンシン系(RAS)阻害薬は、その降圧効果が循環血液量に依存することが分かっています。
具体的には、塩分摂取量が多いと降圧効果が減弱する一方、脱水状態ではかえって降圧効果が増強してしまいます。例えば災害現場では、どちらの状況にも容易に陥ることが予想できます (災害食は塩分が多い)。そのため、降圧作用の変動し易いRAS阻害薬ではなく降圧作用の安定したCa拮抗薬が推奨されています。
医療現場においても、RAS阻害薬を使用されている心不全・CKD患者に対し、上記を踏まえつつ、管理栄養士の先生と協働して指導に当たると良いのではないかと考えています。
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