日本と欧米間でのクレアチニン測定法の違い

腎機能評価
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皆さんは血清クレアチニンの測定方法がかつて日本と欧米で異なっていたことをご存知でしょうか? 本記事ではその違いと、腎機能評価への活かし方を解説します。

血清クレアチニンの測定方法「酵素法」と「Jaffe法」

クレアチニンの測定方法は「酵素法」と「Jaffe(ヤッフェ)法」が存在します。正確なのは酵素法です。日本では酵素法を採用しており、測定誤差はありません。

一方で、欧米ではJaffe法でクレアチニンを測定していました。Jaffe法ではクレアチニンだけでなくビタミンCやピルビン酸にも反応するため、酵素法と比べて0.2mg/dL(約20-30%)高くクレアチニンが測定されてしまいます。

つまり、酵素法で測定したCcr>Jaffe法で測定したCcrとなり、約20%の誤差があります。酵素法で測定したクレアチニンに0.2を加えると、Jaffe法で測定したクレアチニンとほぼ同等とみなすことができます。

クレアチニンクリアランスと糸球体濾過量 (GFR) の関係

ところで話は変わりますが、クレアチニンクリアランスと糸球体濾過量(GFR)の違いは覚えていますか?

クレアチニンは糸球体濾過の他にも尿細管からの分泌を受ける為、クレアチニンクリアランスはGFRより値が約20%高くなるのでした。そのためCG式で求めたCcr(酵素法)を0.789倍するとGFRに近似することができるとされています。

つまり、CCr(Jaffe法)≒eGFRが成り立ちます。

まとめると上図になります。少しややこしい話になりましたが、頑張って整理してくださいね。

※ここで記載されている個別化eGFRとは単位がmL/minのeGFRのことです。カルテの検査報告書に記載されているeGFRは単位がmL/min/1.73m^2で、170cm,63kgの体格の人に自動補正されており、これを標準化eGFRと呼んで区別します。薬剤の投与設計には前者の個別化GFRを原則使用します。

測定方法の違いをどう扱う?

ここまでクレアチニンの測定方法の違いを主に説明しました。

なぜこれを知っておく必要があるかというと、「多くの薬の治験は欧米で行われているため」です。腎排泄薬剤の添付文書には腎機能別の投与量が記載されていますが、欧米で行われた治験結果をもとに投与量が設定されています。このときのクレアチニンの測定方法は日本の酵素法ではなく、Jaffe法である可能性が高いということです。

例えば、B型肝炎の治療に用いるエンテカビル(商品名:バラクルード®)ですが、添付文書にクレアチニンクリアランスに応じた投与量の記載があります。エンテカビルの治験は欧米で行われており、クレアチニンはJaffe法で測定しているはずです。これを日本で適応する際は、クレアチニン値に0.2を加えるか、個別化eGFRで代替するというのが添付文書に沿った対応ということになります。

ですが、これをルーチンで行うべきかどうかは微妙なところです。

というのも、この対応をすると「減量の提案が増える」ことになります。減量することで安全性は高まりますが、有効性は落ちる可能性があります。

抗血栓薬などのハイリスク薬はともかく、比較的安全性の高い薬剤においては、酵素法のクレアチニンをそのまま外挿してしまっても大きな問題はないように思います。

あくまで私見ですので、どう対応するのかは薬剤ごとに、また患者ごとに総合的な考察が求められるところでしょうか。

現在はどうかというと、2011年以降は測定誤差がなくなっています。そのため、2011年以降に治験が行われた薬剤はクレアチニン値をそのまま適応してよいと考えます。

参考までに、クレアチニン測定方法がはっきりわかっている薬剤を上に示します。

まとめ

  • 治験時にクレアチニンを酵素法で測定した薬剤→日本の測定法と同じであるため、従来通りクレアチニンクリアランスを用いる
  • 治験時にクレアチニンをJaffe法で測定した薬剤→酵素法で測定されたクレアチニン値に0.2を足して使用するか、個別化eGFRを用いる。ただし、薬剤・患者毎にその適応は検討する必要がある。

腎機能評価の難しいところですが、実際はもう少し複雑で、考えることがまだまだあります。次回以降の記事で触れていきたいと思います。

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