本記事では浮腫(むくみ)の観察部位とその理由について説明します。
浮腫を示唆する自覚症状としては、「指輪が入らなくなった」 「靴が小さくなった」「靴下を履くと足に跡がくっきりつく」 「まぶたが重い」などでしょうか。
間質液が2.5~3L増加することで肉眼的に浮腫が明らかになるとされています。
浮腫の観察はどこで行う?
本題に入りますが、浮腫の観察は一般に「前脛骨部(すねの前側)」で行います。
前脛骨部を約10秒、自分の爪の色が白くなる程度の強さで圧迫します。
よく言われていることではありますが、そもそもなぜ前脛骨部でみるのでしょうか?
水分は重力で下に落ちるから、下半身の方が見やすいという理由からでしょうか。
確かにそうなのですが、であれば前脛骨部よりふくらはぎの方が適切かと思われます(多くの人は仰向けで寝るため)。前脛骨部で観察する理由としては不十分です。
なぜ前脛骨部で観察するのか?
理由を知るために、足背部(足の甲)で浮腫の観察をする場合を見てみましょう。
実は浮腫の観察は前脛骨部以外でも行うことができ、観察部位の一つに足背部があります。靴下を脱がせて足背部を見ると、親指側よりも小指側の浮腫が目立つことが多いです。これはなぜでしょうか。
正解は「小指側の方が筋肉量が少ないから」です。
動脈と違って静脈の血流は乏しいため、逆流防止の弁がついています。そのため、静脈の血液が心臓に戻るためには、静脈周囲の筋肉の収縮により血液を押し出してもらう必要があります。しかし筋肉量が少ないとうまく血液を押し出すことができず、水分が間質に漏れて浮腫を生じやすいのです。
親指周囲の筋肉量は多く、小指周囲の筋肉量は少ないです。実際、「親指だけ動かす」ことは可能でも、「小指だけ動かす」ことは難しいのではないでしょうか。
小指が浮腫みやすいことの原因は理解できましたか?
下半身全体に目を向けると、足背(親指側)、大腿伸側、ふくらはぎの筋肉量は多いです。
これらの部位では筋肉の収縮により血流がウォッシュアウトされやすく、水が停滞しづらいために、浮腫の観察には不向きです。
以上を踏まえると、浮腫の観察に適しているのは筋肉量の少ない大腿屈側、前脛骨部、足背(小指側)ということになります。
前脛骨部は被服で覆われていることが少なく観察も容易であることから、浮腫の観察部位としてよく使用されます。
問題です
ここで1つ問題です。
寝たきりの患者の軽度の浮腫の観察部位として適している部位はどこでしょうか。
正解は3番「仙骨部」です。「寝たきり患者」ですので、重力で水分が背部にいきやすいためですね。
うっかり4番「前脛骨部」を選んでしまった方もいるかもしれませんが、歩くことができない方では、軽度の浮腫の場合は出にくいかと思われます。
左下肢の方が浮腫みやすい
もう1つのポイントとして、浮腫は右下肢よりも左下肢で強く出ることがあります。
この理由は、左の総腸骨静脈(上図★部分)が右腸骨動脈(腹側)と背骨(背側)で生理的に圧迫を受ける為、左下肢の方が血流が停滞しやすいためです。
逆に考えると、右下肢の方が左下肢より浮腫んでいる場合、何か異常がある可能性があります。
個人差はありますが、覚えておくと役に立つかもしれません。
今回は解剖的な話が主になりましたが、浮腫の観察は前脛骨部で行うことの理由は理解できましたか?次回以降は具体的な評価方法について説明します。
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