前回の記事(~浮腫の性状から原因を考えてみよう~)では、主に毛細血管~間質に目を向け、浮腫の原因について考察しました。
本記事では、動脈側・静脈側にも着目し、より実臨床に即した浮腫の評価について解説します。
教科書上の浮腫の評価方法は
教科書的には
・浮腫が片側性なら深部静脈血栓症(DVT)を
・非圧痕性なら甲状腺機能低下症を
・Fast edemaならネフローゼ症候群を
・両側圧痕性かつSlow edemaなら心腎肝を
疑うといった内容が言われています。
もちろん理にかなった内容はあるのですが、実臨床ではいかがでしょうか。
実臨床では教科書通りにいかないことも…
浮腫のほとんどは両側圧痕性かつSlow edemaです。教科書的には心腎肝を疑うように書かれていますが、心不全も腎不全も肝硬変もなく、原因がよく分からない、ということがあります。
そこで、毛細血管と間質から視点を拡げて、動脈・静脈側に注目してみたいと思います。
動脈側の要因
細動脈から毛細血管への入口には「前毛細血管括約筋」が存在し、動脈側からの血流がそのまま毛細血管に流れ込まないよう調節を行っています。詳しくは後述しますが、この筋肉は交感神経支配です。
血圧の記事(バイタルサイン②~続・血圧~)で触れましたが、3種類ある血圧のなかでも平均血圧が臓器(毛細血管)への血流を決定します。
この際、平均血圧が多少変動しても臓器への血流は一定に保たれる(自動調節能)が働くのでしたね。実は、この自動調節能を担うのが「前毛細血管括約筋」になります。
具体的には、平均血圧が高いと前毛細血管括約筋が収縮して血流を制限しています。
逆に、平均血圧が低いと前毛細血管括約筋が弛緩して血流を促進しています。
この際、毛細血管括約筋の収縮が不十分だとどうなるでしょうか。
毛細血管内に動脈からの速い血流が多量に流入し、静水圧が上昇することで間質へ水が漏れ、浮腫が増悪することが予想できますね。
では、前毛細血管括約筋の働きが不十分となる状況は何があるでしょうか?
前毛細血管括約筋は交感神経支配であると先述しました。
すなわち、
・高齢
・糖尿病性神経障害
・パーキンソン病
・そのほか自律神経障害を来す病態
などの状況では、多かれ少なかれ自律神経障害を来し、前毛細血管括約筋の働きが低下する可能性があります。
また、薬剤面ではCa拮抗薬にも要注意です。Ca拮抗薬は血管平滑筋内のCaチャネルを阻害するため、筋肉の多い動脈に選択性が高いことが特徴でした。これにはもちろん細動脈の前毛細血管括約筋も含まれます。(詳細は記事~Ca拮抗薬の種類と使い分けは?~を参照)
毛細血管から少し視点を拡げて動脈側に注目すると、浮腫の原因が多く浮かんでくるようになったのではないでしょうか。
静脈側の要因
次に、静脈側にも注目してみましょう。
静脈の血流は遅いため、周囲の筋肉の収縮と逆流防止の弁が末梢→中枢側へ向かう血流を作っています。
・筋肉の収縮
筋肉が少ない、あるいは動かす機会が少ない場合はウォッシュアウトできる血液量も少なくなり、浮腫に繋がります。これについては、患者に日頃の運動量や生活習慣を聴取する必要があります。
・静脈弁
高齢者では弁の機能が低下している可能性があります。
表在静脈が拡張している場合、慢性的な静脈の血流うっ滞を示唆します。とくに、足関節の内側、内果(くるぶしの内側)の部分が見やすいので、観察する価値はあるでしょう。
筋力低下、弁の機能不全の他にも、静脈側の要因として以下が考えられます。
・深部静脈血栓症
・右心不全・腎不全によるうっ血
・便秘・肥満による腹腔内圧の上昇
(静脈の血流が右心房に還るには腹腔内を通る必要があるが、圧が高いと腹腔内を通りにくい)
特に、便秘の解消が浮腫の改善につながるという視点は重要に思います。
いかがでしょうか。
浮腫の原因は多岐に渡ります。薬剤の副作用が原因になることもありますし、医療者として身近な症状である浮腫に対応できることは重要です。
少し複雑ですが、毛細血管、動脈側、静脈側に分けて整理すると把握が容易になるかと思います。
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