正常時の心電図は以下のような波形でした。縦軸が起電力の大きさ(単位:mV)、横軸が時間(1mmあたり0.04秒)です。
この波形、場所によって上を向いたり下を向いたりしています。これは何から生まれる違いなのでしょうか。また、R波はピークが大きく出ているのに比べ、P波やT波は小さめです。このような波形の大きさの違いはどこから来るのでしょうか。
波形が上向き・下向きになる理由
各心電図波形は上向きと下向きの両方に振れます。
上図ではQRSが上向きと下向きの両方を向いていますが、この理由について説明します。
まず、電気信号は+(脱分極状態の細胞)から-(分極状態の細胞)へ流れていきます。
これは良いですね。
この電気信号を記録するために、体表面に電極(上図)が付いています。
この電極を自分の目だとすると、電極に電気信号が近づいてくる場合に心電図波形は上向きになります。
上図の場合はいかがでしょうか。
電極(目)から見て、電気信号は遠ざかっていきます。この場合、心電図波形は下向きに振れます。
まとめると上図のようになります。
繰り返しになりますが、電極(目)からみて近づいてくる場合は上向きの陽性波、遠ざかる場合は下向きの陰性波となります。
ここで刺激伝導系を振り返ってみましょう。
通常は洞結節からはじまり、房室結節を経てヒス束→右脚・左脚→プルキンエ線維と電気信号が伝わっていくのでした。
ベクトルの向きとしては、右心房にある洞結節から心室へ伝わっていきますので、右上→左下の方向を向いていることが分かります。
電極(目)はどこについているのか?
病棟で使用されるモニター心電図は3種類の波形があり、Ⅰ誘導、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導と名前がついています。
各誘導の違いは、心臓をどの電極から見ているか?です。
患者さんには赤、黄、緑と3つの電極(目)が装着されています。
1誘導は黄電極に目がついていて、赤電極の方角を見ています。つまり心臓をまっすぐ左から見ていることになります。
Ⅱ誘導は緑電極に目がついていて、赤電極の方角をみています。心臓を右下から左上方向に眺めているイメージです。
Ⅲ誘導も緑電極に目がついていますが、黄電極の方角をみています。
これら3つの誘導のうち、どの誘導が一番適していると思いますか?
正解はⅡ誘導です。
さきほど刺激伝導系のところで、電気信号のベクトルは右上→左下へ伝わっていくと述べました。そのベクトルが最も近づいてくるところで拾おうとする場合、左下から右上を見ているⅡ誘導が最も適しているということになりますね。
ちなみに肥満の方では、心臓が押されて若干横向きになることがあります。
この時ベクトルとしては左から右に向かうように見えますので、Ⅱ誘導よりもⅠ誘導の方が見えやすいですね。
このように、心電図の波形は心臓をどの位置から見ているかによって大きく変化します。
12誘導心電図というものもあります。これは心臓を12の方角から見て記録をしています。
モニタ心電図では3つの方角のみでしたので、より詳細な評価が可能ですね。
イメージが湧きづらいかもしれませんので、例え話をします。
上の図形、実際はどんな形をしているでしょうか?
横から見ると△、上下から見ると円です。
正解は円錐です。様々な方向から眺めたので分かりましたが、1つの方角だけだと難しいですよね。心臓も同様で、いろんな方角から眺めることで異常が見つかる可能性があります。
モニター心電図と12誘導心電図の違いは↑になります。
モニター心電図は3つの誘導を設定可能ですが、通常表示できるモニタは1つ(Ⅱ誘導が多い)です。24時間経時的に確認ができますので、時系列での評価に適しています。
一方で12誘導心電図は場所の異常を見つけるのが得意ですが、電極をたくさん貼る必要があり、記録時間も10秒と短いです。そのため、長時間モニタリングして分かるような異常の発見には向いていません。
ここまで縦軸が上向きと下向きの理由について説明しました。

あれ?左下から右上を見るⅡ誘導で見ると、電気信号は右上から左下に近づいてくるんだから波形はずっと上向きになるんじゃないんですか?

そのあたりについては各波形ごとの記事で詳しく見ていくよ!だから今はそっとしておいてね!
波形の大きさが異なる理由
今度は縦軸の大きさ(振幅)に注目します。心房の脱分極を表すP波は振幅が小さく、心室の脱分極を表すQRS波は振幅が大きいですね。この違いは何でしょうか?
理由は心房と心室の大きさが異なるためです。
心房は心室と比べて壁が薄く、細胞も少ないため、脱分極に必要な起電力は小さいです。一方心室は壁が分厚く細胞数も多いため、脱分極に必要な起電力が大きいことが分かります。結果、P波とQRS波の大きさの違いにつながっています。
まとめると上図のようになります。
房室結節の細胞数は心房筋、心室筋と比較して非常に少ないため、体表面心電図では電気活動を記録することができません。そのため、PQ部分は基線上に存在しています。
振幅の大きさは人それぞれで、基礎疾患により変動します。
例えば高血圧がある場合はどうでしょうか。心拍出のためには、心臓は体血圧よりも更に高い圧を生む必要があります。常に筋トレをしているイメージです。慢性的な経過の中で、心臓は次第に肥大していきます。そのような心臓の収縮には通常よりも大きな起電力が必要ですよね。結果として、R波の増高が見られます。これを左室高電位と呼びます。
上述の高血圧のように圧が高かったり、他には心臓内の容量(血液)が多いと高電位になりえます。
具体的な基準についてはここで言及しませんが、高電位になる理由は理解できましたでしょうか。
P波に関しても考えてみましょう。
P波は心房の脱分極を表しています。右心房にある洞結節から電気信号が心房全体に伝わりますので、上図上段のように前半部分は右房、後半部分は左房の脱分極を表しています。
例えば右心房に負担がかかると、上図中央のようにP波の前半部分が尖鋭増高となります。これを肺性P波と呼び、肺高血圧などの疾患の存在が示唆されます。
同様に左心房に負荷がかかると、上図下段のようにP波の後半部分が増高し、全体としては二峰性にみえます。二峰性P波を見た場合、左心系に負荷がかかるような疾患があるかもしれません。左心不全や僧房弁狭窄症などが考えられます。
このように、P波の形から様々なことが分かりますね。
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