本記事では、QRS波とT波の関係について掘り下げて説明します。
ポイント:QRS波とT波の極性は原則同じ
極性とは波形が上向きか下向きを指します。
上の波形ではQRS波は上向き、T波も上向きですので極性は同じですね。
(※QとSは下向き、Rは上向きですが、差し引き+ですので上向きと考えます。)
細胞内がプラスの電位になる脱分極と、マイナスの電位に戻る再分極の極性が同じになるのはなぜでしょうか。その理由を見ていきましょう。
詳しく説明するために、心室の内膜・外膜(赤丸部分)に注目してみます。
電気信号が心室へ伝わると脱分極、次いで再分極を起こしますが、心室筋は1cm程度の厚みがあるため、内膜側と外膜側で若干の時間のずれがあります。
順番に見てみましょう。脱分極はどこで最初に起こるでしょうか。
脱分極の順番と極性の関係
正解は、内膜が先に脱分極を起こします。
理屈としては刺激伝導系のプルキンエ線維が内膜側に張り巡らされており、電気信号が内膜側へ先に伝わるためです。
このとき、心電図波形はどうでしょうか。内膜側は+、外膜は-になっています。
電極(目)は体表面、外膜側へ装着されています。電気信号は+から-へ動きますので、電極(目)からすると近づいてくる方向に電気信号が向かってきます。したがって波形は上向きに振れ、これがQRS波に相当します。
遅れて外膜側も脱分極を起こします。波形は赤線部分です。
内膜側も外膜も+に帯電しているため、電位差はなく、電気の移動はありません。
したがって波形は基線上になります。本記事では詳しく触れませんが、実はこれはST部分に相当します。
再分極の順番と極性の関係
ここからがポイントです。
脱分極の次は再分極ですが、内膜側と外膜側のどちらから起きると思いますか?
普通に考えれば先に脱分極を起こした内膜側から再分極を起こすと思われますが、実は外膜側から起こります。
理由は、再分極に関わるカリウムチャネルが外膜側に高密度に発現しているため、活動電位の持続時間が短いためです。
このとき、心電図波形はどうでしょうか。
内膜が+、外膜が-に帯電しています。したがって電極(目)からすると近づいてくる方向に電気信号が向かってきますので、上向きの波形になります。これがT波です。
QRS波とT波は上向きになりました
正常であれば、このようにQRS波とT波は同じ方向を向くことになります。
このことに、どのような意義があるのでしょうか?
脱分極・再分極の順番の生理的意義
心室の収縮と拡張の点から考察してみます。
まず、脱分極を起こすと心室は収縮します。
もし外膜側から脱分極を起こすとどうでしょうか。外膜側から先に収縮することになりますが、内膜がジャマで外膜側は収縮することができませんよね。
実際は内膜→外膜の順番で脱分極を起こしますので、心室はスムーズに収縮することができます。
次に再分極に注目してみます。再分極では心室は拡張するのでした。
もし内膜が先に再分極するとどうでしょうか。
外膜がジャマでうまく拡張することができませんね。
実際は外膜→内膜の順番で再分極を起こすので、心室はスムーズに拡張することができます。
まとめ
まとめると、
心室の脱分極(収縮)は内膜→外膜の順番に起こり、QRS波は上向き
心室の再分極(拡張)は外膜→内膜の順番に起こり、T波は上向き
ポンプ機能から考えても非常に理にかなっていることがわかります。
心電図上はQRS波とT波の極性が同じであることが、上述の事象を表しています。
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