本記事では苦手意識を持たれがちなイオンチャネルと心電図の関係について解説します。
「分極」とは何か?
はじめに、普段何気なく使われている分極という言葉の説明はできますか?
分極とは、「細胞内の電位が細胞外に比べて低くなっていること」と定義されます。
細胞外、すなわち血管内の電位はゼロです。陽イオンと陰イオンの数は同じですよね。
細胞内の電位はどうかというと、実はマイナスの電位になっています。
これはイオンチャネルやトランスポーターに働きに因ります。薬剤が関与するところですので、掘り下げて説明します。
分極を作り出す生体分子
- Na-K 交換ポンプ
Na-K-ATPaseとも呼ばれます。これはATP(エネルギー)を使用して、Naイオンを細胞内→細胞外へ3つ放出し、Kを細胞外→細胞内へ2つ取り込むという働きをします。
これらは陽イオンですので、細胞内からすると差し引きマイナスの電位に傾きます。
ちなみに、Na-K-交換ポンプは心筋細胞だけでなく全ての細胞に発現しています。細胞外にNaが多く、細胞内にKが多い理由はこのポンプの働きに因るところが大きいです。
- Kチャネル
細胞膜に発現しており、「常に」開口しています。Kイオンは細胞内に多く細胞外に少ないため、濃度勾配によりKイオンは細胞内→細胞外へ移動してゆきます。
これも細胞内からすると陽イオンが外へ出ていくこととなりため、細胞内はマイナス電位
へ傾いていきます。
これらの働きにより、心筋細胞内は-90mVに帯電しています。
脱分極の仕組み(心筋細胞の場合)
改めて言葉の整理をしておきます。
分極とは細胞内の電位が細胞外に比べて低いことと定義されます。
脱分極は分極を脱して細胞内が一時的にプラスの電位になることを意味します。
この状態は長くは続きません。細胞内電位は速やかに低下し、再度分極状態へ戻ります。これを再分極と呼びます。
脱分極の仕組みはどうなっているのでしょうか。
これはNaチャネルとCaチャネルが関与します。下図を参照してください。
これらは脱分極時に開口し、細胞外→細胞内へ入ってきます。最初にNaイオンが入り、次いでCaイオンが入ります。両方とも陽イオンですので、活動電位の立ち上がりと維持に寄与しています。
Na-K交換ポンプとKチャネルは「常に」働いているのに対し、NaチャネルとCaチャネルは「必要時のみ」働くといったイメージです。
心室筋の活動電位の変化を心電図と対応させつつ説明します。
①まずNaチャネルが開口し、Naイオンが細胞内へ入り脱分極が起こります。ここはQRS波に対応し、心室は収縮します。
②速やかにNaチャネルは閉じてしまいますが、代わりにCaチャネルが開口し、活動電位がすぐに下がらないように維持します。これはST部分に対応します。心室の収縮を維持するために、Caイオンの働きは重要です。
③Caチャネルは閉口し、最終的に常に開口しているKチャネルのみが残ります。先述した通り、Kチャネルは細胞内からKイオンを出し細胞内電位を下げていくため、再分極へ寄与しています。この部分はT波に対応し、心室は収縮を終え拡張します。
心室筋を例に説明しましたが、心房筋でも同様の事象が生じています。
上図をみると、心室筋より心房筋の方が活動電位の持続時間が短いことがわかりますが、これはKチャネルの活性化が速いことが関係しているとされています。
心房筋、心室筋の活動電位について説明しました。これらは総称して作業心筋と呼ばれ、心臓の収縮と拡張に重要です。
脱分極の仕組み(ペースメーカー細胞の場合)
一方で、心臓には刺激伝導系という電気信号を管理するペースメーカー細胞もあります。
もちろん活動電位が存在するのですが、作業心筋とは大きく異なります。
上図を参照してください。刺激伝導系の中でも洞結節と房室結節の活動電位の成り立ちを示しています。
まず、活動電位の立ち上がりに関係するチャネルはCaチャネルです。作業心筋ではNaチャネルであった点が異なります。
また、活動電位は立ち上がったのちに速やかに低下していることが分かります。
作業心筋とは異なり収縮するわけではないため、脱分極を長期に維持する必要がないためです。
難しく感じるところかもしれませんが、理屈が分かれば理解もしやすいのではないでしょうか。薬剤の作用を理解するに当たり重要なところですので、しっかり整理しておきましょう。
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