3号輸液(維持液)は連日投与されている患者さんも多いですよね。
実は漫然な維持輸液投与によって電解質の異常が起こりうることをご存じでしょうか?
本記事ではソルデム3Aを例に説明しますが、3号液と記載のあるものと基本的な特徴は同じですので、各施設で採用のある3号液に置き換えて文章を読んでいただければ大丈夫です。
私の職場ではKN3号だなー。KN3号が毎日点滴されていてもあんまり気にして見ていなかったけれど、、異常が出ることがあるの?
復習:3号輸液(維持液)の特徴
改めて復習になりますが、3号液は生理食塩水と5%ブドウ糖液が1:3で配合されたものとイメージすると分かりやすいです。
従って、ソルデム3A 2L= 生理食塩水 500mL + 5%ブドウ糖液 1500mLと理解すると水分分布がイメージできます。生理食塩水は細胞外液に100%分布し、5%ブドウ糖液は細胞外液: 内液=1:2の比率で分布するため、整理すると下図の通りになります。結果として細胞外液と内液を50%ずつ均等に「維持」できるのが特徴でした。
実際、3号液はどのような場面で使用するのでしょうか?
当然血管内脱水で血圧が低い場合には3号液ではなく、リンゲル液などの細胞外液補充液を使用します。3号液を使用する場面として、血管内脱水による血圧低値や頻脈などがない、つまり循環動態に問題ないことが前提になります。
添付文書の「効能又は効果」を参照すると、「経口摂取不能又は不十分な場合の水分・電解質の補給・維持」との記載があります。
これを分かりやすく解釈すると、循環動態は安定しているが、何らかの要因でまだ口から水分や食事は摂れない状態である。そのような時に、「最低限」の水分、電解質を補充しておく目的で3号液を使用する、ということになります。
外科のクリニカルパスの中に、術後の輸液として入ってるイメージあるな
ソルデム3A 2Lの組成を以下に示します。1日に必要な水分と電解質を補充できていることが分かります。経口摂取が不十分な場合の一時的な使用として何ら問題はないわけです。
一方で、3号液の使用はあくまで「一時的」であるべきです。その理由は①栄養面のリスク、②低Na血症のリスクがあるためです。順番に説明します。
3号液のリスク➀ー栄養面のリスク
まず栄養面のリスクです。
ソルデム3Aは4.3%のブドウ糖を含んでいます。1Lあたり、ブドウ糖を43gしか投与することができません、おにぎりでいうと1つ分くらいと私は患者さんに説明しています。
さらに、糖代謝にはビタミンB1が必要ですが、ソルデム3Aには含まれていません。よって、別途補充する必要があります。
何よりも、ヒトの身体の原材料であるタンパク質が維持液には含まれていません。つまり、ソルデム3Aを漫然と継続していることは、低栄養が徐々に進行するリスクを有しています。
3号液のリスク②ー低Na血症のリスク
最初にNa濃度異常について触れておきます。
低Na血症は「血漿Na濃度<135mEq/L」と定義されます。前回までの記事で血漿浸透圧≒Na濃度×2と説明しました。低Na血症では血漿浸透圧が低値となるために、細胞外→細胞内へ水分が移動し、結果として細胞の大きさが増大します。
逆に、高Na血症であれば血漿浸透圧が高値となるため、細胞内→細胞外へ水水分が移動し、細胞のサイズは小さくなります。このように、Na濃度異常では細胞のサイズが変化することが特徴です。
細胞のサイズが変わっても基本的には問題ありません。しかし、頭に関しては別です。頭は頭蓋骨で覆われており、水の逃げ場がありません。
したがって、Na濃度異常では中枢神経障害に最も注意が必要となります。
具体的な症状としては、重症例で痙攣や昏睡をきたすとされています。軽症例でも悪心・嘔吐、脱力が認められるとされており、実臨床ではしばしば見逃されていることが多いです。
Na濃度異常について触れたところで、本題に戻ります。
正常な血中のNa濃度は140mEq/Lであるのに対し、ソルデム3AのNa濃度は35mEq/Lと約1/4です。「塩分1g=Na 17mEq」ですので、水分1Lに対して塩分が2gしか入っていないということになります。これを漫然と継続した場合、血中のNa濃度が低下する可能性があります。
低Na血症を回避する人体の働き
血中のNa濃度が低下する可能性とは言っても、健常人であれば低Na血症になることはありません。腎機能が正常であれば、仮に沢山の飲水をしても、その分薄い尿が排泄されるため、低Na血症を来すことはありません。皆さんも同じような経験があるかと思います。
この調節に関与するホルモンが「ADH: 抗利尿ホルモン」です。
ADHは抗利尿ホルモンと呼ばれ、腎集合管から水のみを再吸収し、血液に戻します。つまり、ADHが働くと血液は希釈され、尿は濃くなります。
腎臓は、ADHの働き具合を調節することで、尿の浸透圧を調節することができます。
例えば、たくさん水を飲むと、そのままでは血液が希釈されてしまいますが、ADHを抑制し、尿の浸透圧を下げることで対応します。逆に、塩分を多くとると血液は濃くなりますが、ADHの分泌が亢進し、尿の浸透圧を高めることで対応します。
このように、ADHが正常に働くことでNa濃度異常を起こすことはありません。腎機能の正常な健常人では、尿浸透圧は50-1200mOsm/Lまで調節することができます。
あれ?浸透圧ってなんだっけ?
濃度の異なる2つの液体を隣り合わせにした際に、濃度の低い方から濃度の高い方へ水が移動することを『浸透』いう。このときに水が移動する力を『浸透圧』と呼ぶんだったね。
その定義がまず難しいです…
たしかに。色々混ざってる液体とただの水を、水だけが通れる膜(半透膜)で隔てるのをイメージしてみようか。色々混ざってる方が濃ければ濃いほど水はすごい勢いで移動していきそうだよね。ざっくりいうと、この移動する力が浸透圧。
ふーん。浸透圧高い≒濃いって思っときます!
ADHの働きにより、通常は大量飲水を行っても低Na血症を来すことはありません。
では、何Lまでの飲水が許容されるのでしょうか?
尿に含まれて浸透圧を保っている物質を「溶質」と言い、蛋白質由来の尿素や塩分などの電解質を指します。尿浸透圧は50mOsm/Lまで低下させることができると説明しましたが、50mOsm/Lまで薄めたとしても尿1Lあたり50mOsmの溶質(蛋白質由来の尿素や塩分などの電解質)の摂取が必要となります。
1日の平均的な溶質摂取量は600mOsmです。
600mOsm ÷ 50mOsm/L = 12Lとなりますので、12Lまでの飲水は許容され、それ以上は低Na血症を来すということとなります。
高齢者は特に低Na血症に注意
12Lまでが許されるのであれば数L程度のソルデム3Aを投与しても問題はないように思います。
しかし、この前提として①充分な溶質摂取と②腎機能が正常であることが挙げられます。
①について、ソルデム3Aを投与する患者は食事量が不十分なことが一般的です。ソルデム3A自体にも溶質の供給源となるアミノ酸は含まれていません。食事をとれたとしてもトーストとコーヒーやパスタなど炭水化物では、溶質の供給源にはなりません。
②について、腎機能が正常である高齢者はほとんどいません。下図の通り、腎機能が低下するにつれて、尿浸透圧の調節幅はどんどん狭くなっていきます。末期腎不全では尿浸透圧の調節ができなくなるため、低Na血症にも高Na血症にもなることが予想できます。
我々が日常臨床で遭遇する患者の多くは食欲が不十分で腎機能の低下した高齢者です。
そのため下図のように、溶質摂取量が300mOsm、かつ腎機能低下により尿浸透圧の最大希釈能が150mOsm/Lまで低下しているのが現場では一般的ではないでしょうか。
この場合、300mOsm ÷ 150mOsm/L = 2Lから、2Lを超える飲水は低Na血症を来すこととなります。健常人に比べるとかなり予備能が低下していることが理解できます。
3号液が低Na血症を来すイメージが湧いてきましたか?実は低Na血症は電解質異常の中で最も遭遇頻度が高いことが報告されています。
漫然な維持輸液投与による医原性の低Na血症は未然に防ぎたいところです。
今回の記事はここまでになります。低Na血症の頻度は高いものの、その病態は複雑です。少しずつ整理できるようになると良いですね。
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