急性期病院でよく見る基本の輸液、生理食塩水と5%ブドウ糖液。よく触る薬ではありますが、使い分けされている理由は?と聞かれると「なんでだっけ?」となる方も多いのではないでしょうか。
生食が外液補充でブドウ糖液が内液補充でしょ?国試でやったよ!
そうだね!じゃあどうして生理食塩水では外液が補充されて、ブドウ糖液では内液は補充されるんだっけ?
えっと…
ここでは二者の使い分けを説明できることを目標に学習していきましょう。これができれば人体の水分の分布にも詳しくなれますよ!
人体の水分分布はどうなっている?
ヒトを構成する要素の中で、最も多いものが水分であり、体重の約60%を占めます。
この割合は患者背景により増減することもあります。例えば小児であれば70%、脂肪の多い肥満患者や水分の少ない高齢者であれば50%とされることもありますが、臨床においてはざっと60%前後と認識しておいて何ら問題はありません。50kgであれば水分は30L、100kgであれば水分は60Lといった具合です。
次にこの60%の水分ですが、細胞外液と細胞内液へ1:2の比率で分かれます。さらに、細胞外液は血管内と間質に1:3の比率で分かれます。
まとめると下図になります。血管内:間質:細胞内液=1:3:8となり、やさい(831)と覚えましょう。
比率を覚えたところで、この3区分について掘り下げてみます。
血管内と間質の間は血管内皮細胞があります。アルブミンのような高分子量の物質は通ることができません。また、間質と細胞内液の間には脂質二重層の細胞膜があります。Naイオンは血管内皮細胞は通ることができますが、脂質二重層は通過することができないため、細胞外液へ留まります。一方で、水は細胞内外を自由に移動することができます。
どうしてそんな分布になってるの?
細胞膜にはNa-K-ATPaseという酵素が存在しています。
具体的にはエネルギー(ATP)を消費してNaイオンを3つ細胞外へ移動させ、Kイオンを2つ細胞内へ移動させています。結果、Naイオンが細胞外に、Kイオンは細胞内に多く分布しています。我々が採血結果で確認するのは細胞外液の組成になりますが、細胞外液にはNaイオンは約140mE/L、Kイオンは約4mEq/L存在しています。
浸透とは、濃度の異なる2つの液体を隣り合わせにした際に、「濃度の低い方から濃度の高い方」へ水が移動することをいいます。このときに水が移動する力を浸透圧と呼びます。
野菜に塩を振ると水が抜けて柔らかくなったり、ナメクジに塩をかけると小さくなるのは浸透圧によります。逆に、濃度が同じであれば水の移動は生じません。
血液にも浸透圧が存在しています。実際はもう少し複雑な式となりますが、現時点ではNa濃度の約2倍(140×2≒280mOsm/L)と覚えておきましょう。
生理食塩水は細胞外液を補充する
以上を踏まえたうえで、具体的な輸液の話に入ります。
生理食塩水は0.9%食塩水であり、水1LにNaClが9gはいっています。生理食塩水を投与すると、静脈ルートを通してまずは血管内へ水が入ります。
Naイオンは血管内から間質までは移動できますが、Na-K-ATPaseの働きにより、通常細胞内へ移動することはできません。そのため、生理食塩水は下図の通り細胞外液に主に分布します。
5%ブドウ糖液は主に細胞内液を補充する
次に、5%ブドウ糖液を投与した場合を考えてみます。
5%ブドウ糖は水にブドウ糖を溶かしたものになります。ブドウ糖は血管内へ入るとインスリンによって細胞内へ取り込まれ、最終的にATPへ返還されます。つまり、水だけが残ることになります。この時の水を自由水と呼びます。
水は細胞内外を自由に移動することができますので、先ほど説明した細胞内:間質:血管内=8:3:1(やさい)の比率で分布することとなります。以上から、5%ブドウ糖液は主に細胞内液を補充することとなります。
ところで、5%ブドウ糖液ではなく、注射用水(蒸留水)を投与してはいけないのでしょうか?
答えはNoです。注射用水は浸透圧がないため、その血管内へ投与した場合、血管内の赤血球内に水が移動し、最終的に赤血球が破裂(溶血)してしまいます。5%ブドウ糖液はブドウ糖を混ぜることで血液と等張になっているため、溶血を起こすことはありません。
3号液は外液と内液どちらを補充するのか?
ここまで、基本的な輸液製剤である生理食塩水と5%ブドウ糖について解説しました。ほとんどの輸液製剤はこの2つの組み合わせで説明することができます。
例えば、3号液(例:ソルデム3A)を投与した場合について考えてみます。
3号液は生理食塩水と5%ブドウ糖液を1:3で配合したものと考えると分かりやすいです。実際ソルデム3AのNa濃度は35mEq/Lであり、生理食塩水を4倍希釈した場合と同等であることが分かります。
図で表すとこのようなイメージになります。ソルデム3A 2L = 生理食塩水 500mL + 5%ブドウ糖 1500mLですね。
生理食塩水が外液に、5%ブドウ糖が血管内:間質:細胞内液=1:3:8の比率で分布することを思い出してみると…下図のように分解して考えることができます。
結果的に、細胞外液と細胞内液には均等に50%ずつ水分が分布しています。3号液は別名維持液とも呼ばれますが、バランス良く維持していることがわかります。
ここで問題です
症例を1つ挙げてみます。
自転車で走行中に、車と衝突し、救急外来に搬送された患者です。
バイタルサインは血圧 が70/40mmHg、 心拍数は120回/分です。バイタルサインの詳しい話は別の機会にするとして、本患者は血圧が低く脈拍が早いことから、出血が進んでいることがうかがわれます。
初期輸液に何を使うかとその理由を考えてみてください。
答え
輸血の準備には時間がかかりますので、初期治療としてはまず輸液を投与することとなります。出血しているということは、細胞外液の中の血管内のボリュームが不足しているということですので、血管内の水分量を効率的に増やせる輸液を選ぶ必要があります。
細胞外液に多く分布する生理食塩水を選択するのが正解です。5%ブドウ糖液は血管内に1/12(≒8.3%)しか分布しないのに対し、生理食塩水は1/4(≒25%)分布するため、生理食塩水は3倍効率が良いということとなります。血管内に輸液を投与することで、血圧が上昇し、脈拍数が低下することが期待されます。
ところで、細胞外液に輸液を投与すると、血管内と同時に間質にも水が分布します。
間質に水分が貯留すると、浮腫が生じます。浮腫自体も問題はあるのですが、急性期においては浮腫の発生よりも血管内容量が不足することの方が問題ですので、やはり細胞外液を投与するという選択に間違いはありません。というわけで、正解は3.の生理食塩水になります。
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