今回の記事ではバイタルサインのうち、血圧について説明します。
バイタルサインとは?
バイタルサインとは患者の生命に関する最も基本的な情報のことです。Vital(生命に関する)+Sign(徴候)です。古典的には血圧、脈拍、呼吸回数、体温が挙げられます。
最近はこれらに加えて意識レベル、SpO2(経皮的酸素飽和度)、痛み、尿量なども含めることがありますが、まずは基本となる4つを学んでいきましょう。
ところで、これら4つのうち最も重要なバイタルサインは何でしょうか?
様々な考え方がありますので、正解は人によって異なると思いますが、生命に直結するという意味では「血圧」と答える方が多いのでしょうか。ここではまず血圧について掘り下げていきたいと思います。
血圧低下時ってどんな状態?
患者の血圧が低下したときに、どう考えますか?
恐らく患者によってベースラインの血圧は異なるでしょうし、どれだけ下がったら循環動態に影響を及ぼすのか、線引きは難しいでしょう。
よく耳にする医療用語に「ショック」という言葉があります。血圧が下がって、患者の状態が危うい、そんなイメージだと思います。
過去の記事で「循環とは酸素を末梢臓器へ届けること」と定義しました。「ショック」にも様々な定義があるのですが、ここでは「酸素需給バランスの破綻」と定義します。すなわち酸素の消費量が循環による酸素の供給量を上回っており、組織に酸素が足りていない状態です。
もっと簡単に言うと酸素が届いていない状態がショックです。
ショックには4つの分類があります。➀循環血液量減少性ショック、②血管分布異常性ショック、③心原性ショック、④閉塞性ショック、の4種類です。
ショックの種類によって頸静脈の状態は大きく異なります。上図の「循環血液量減少性ショック」および「血管分布異常性ショック」では血管内脱水の状態となるため、頸静脈が虚脱します。
一方、「心原性ショック」および「閉塞性ショック」は心臓が血液を前方へ送り出せないために血液の渋滞が起こっており、頸静脈怒張が怒張します。ベッドサイドで判別可能なものですので、ざっくりイメージしておいてください。
血圧低下への対処方法
血圧のざっくりしたイメージですが、「ホースから出る水の勢い」です。この水の勢いが強いほど、血圧が高くなるというイメージを持ってください。
ちなみに「蛇口=心臓」で、「末梢血管=ホース」、「血液=水」です。血圧が低下した(=水の勢いが弱い)場合、これらのいずれかに対して介入を行うこととなります。
①ホースを流れる水の量自体を増やす
これは脱水や出血により血圧が下がっている場合に有効です。ショックの分類でいうと「循環血液量減少性ショック」です。輸液をして水分量を増やします。
具体的には血管内へ移行しやすい生理食塩水やリンゲル液などの細胞外液補充液を選択します。出血であれば輸血も行う可能性があります。循環の3要素でいうと前負荷(血管内水分量)への介入ですね。
②蛇口からの水の勢いを強める
心不全などで心臓のポンプ機能が低下し、血圧が下がっている場合に有効です。ショックの分類でいうと「心原性ショック」です。
具体的には、強心薬を使用して心臓のポンプ機能を強めます。強心薬としてβ1作動薬のドブタミンが頻用されます。循環の3要素でいうと心収縮力への介入に該当します。
③ホースをギュッと締める
ホースを強く手で握ることで水の勢いが一時的に強くなることは想像できると思います。
ホース=末梢血管であり、炎症等が原因で末梢血管が拡張してしまっているような場合に有効です。ショックの分類でいうと「血管分布異常性ショック」です。聞きなれないかと思いますが、血管透過性が亢進しているために血管内の水分が間質へ漏れてしまっている状態です。通常血管と間質の水分比は1:3と過去に説明しましたが、この血管分布異常性ショックでは間質の割合が更に増大しています。
末梢血管にはα1受容体が存在していますので、治療薬剤としては強力なα作用を有するノルアドレナリンやアドレナリンを使用します。
血圧低下に対するアプローチについて、まとめるとこのようなイメージです。血圧が低下している原因は様々なものが考えられますが、血圧を上げるための初期介入の手段としては限られています。
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