本記事では、心臓で電気信号を生み出している組織「刺激伝導系」について説明します。
心電図を判読するために、刺激伝導系の理解は必須です。
刺激伝導系とは?
刺激伝導系は心臓が動くために必要な電気信号の発生から伝導までを担い、心拍を作り出しています。筋と神経の中間のような組織です。
心臓には4つの部屋があります。右か左か、心房か心室かの違いです。
刺激伝導系は心臓のどこを走っているのでしょうか。
刺激伝導系の位置
下図の青枠で囲った組織が刺激伝導系の機能を担うものです。
電気信号を伝える順番に、洞結節→房室結節→ヒス束→右脚・左脚(前肢・後枝)→プルキンエ線維です。
名前がたくさん出てきて大変ですが、少しずつ慣れていけば大丈夫です。
全体としては、心臓の右上から左下に向かう方向に電気信号が流れていきます。
刺激伝導系を場所で分類すると↑になります。
洞結節は右心房に存在します。
房室結節はその名の通り、心房と心室の境目に存在し、両者を分けています。
ヒス束、右脚・左脚・プルキンエ線維は心室に存在します。
電気信号をつくるのは刺激伝導系のうちどこ?
一つ重要な点として、心房-心室間は電気的に絶縁されています。
そのため、通常は電気信号が勝手に心房と心室間を通ることはできません。
「唯一」通れる場所が房室結節です。関所のようなイメージを持ってください。
(※まれな例として、WPW症候群(Wolff-Parkinson-White syndrome)ではケント束と呼ばれる副伝導路が存在し、この場合は房室結節以外にも電気信号を伝える経路が存在することになります。)
具体的に、どこが電気信号を作っていて、どのように伝えているのでしょうか。
結論から述べると、通常時は洞結節が電気信号を作っています。
理由は、刺激伝導系の中で洞結節が最も電気信号を作るスピードが速いからです。
具体的には1分間に60-100回、電気信号を作ることができますが、これは心拍数の正常値と同じですね。
カルテで「洞調律」という言葉を目にすることがあるかと思いますが、これは「洞結節が調律を担っている」ことを意味します。
もし洞結節が機能しなくなったら、電気信号はどうなる?
ではもし、何らかの原因で洞結節が機能しなくなった場合、どうなるでしょうか?
正解は「房室結節が代わりに電気信号を作る」です。
刺激伝導系の各細胞はペースメーカ細胞と呼ばれ、洞結節だけでなく全て電気信号を作る機能を有しています(これを自動能と呼びます)。
電気信号をつくるスピードが最も速いのが洞結節であると説明しましたが、その次に速いのが房室結節です。これを房室接合部調律と呼び、1分間に40-60回の速さで電気信号を作ることができます。
洞結節に比べると遅いですが、洞結節が動かないときに心拍数がゼロになるのはまずいですので、保険として房室結節が代わりに働いてくれます。
では、洞結節に加えて房室結節も働かなかったらどうなるでしょうか?
もうお分かりかと思いますが、ヒス束以下の心室にあるペースメーカ細胞が電気信号を作ります。これを心室固有調律と呼びます。スピードは更に遅くなり、1分間に20-40回程度となります。
心拍数が20-40回になったらどうなると思いますか?
アスリートのように心機能が強い人であれば問題はありませんが血圧を保てるかもしれませんが、心機能の低下した高齢者では血圧が低下する可能性が高いですよね。
これは心肺停止の原因にもなりうる非常に危険な状態と考えるべきです。
対応として、一時的に電気信号を代わりに作る機械(ペースメーカ)を入れることがあります。
まとめると↑のようになります。
刺激伝導系の各細胞は全て自動能を有していますが、洞結節が一番電気信号を作るスピードが速いため、洞結節の周期に合わせて全体が動く仕組みになっています。
これを洞調律と呼ぶのでしたね。
何らかの理由で洞結節が機能しなくなった場合、自動能を有する下位の細胞が代わりに電気信号を作ります。房室結節や心室が担う場合を総称して補充調律と呼ばれます。
用語が多くて大変ですが、少しずつ覚えましょう。
※ちなみに何らかの理由とは、β遮断薬などの薬剤や、高K血症などの電解質異常、心筋梗塞などが該当します。薬剤の副作用でも起こり得ますので、モニタリングできるようになれたら良いですね。
具体的な心電図の波形は次回以降で説明してゆきます。
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