本記事では、実際の症例に基づいて具体的な薬疹への対応を説明します。
症例提示
80代女性、元々エナラプリル5㎎を1日1錠服用されています。
dayX誤嚥性肺炎で入院、培養採取のうえでSBT/ABPC(スルバクタム・アンピシリン)を開始。
dayX+3 入院日に採取した痰培養よりMRSAが検出されたため、VCM(バンコマイシン)を追加。
dayX+5 体幹に皮疹が出現、差し当たりエナラプリルを中止。
dayX+6 皮疹の改善なし、薬疹の疑いで、主治医より以下の相談がありました。

どのように対応すればいいでしょうか。
所見を観察しよう
まずは皮膚の所見を確認します。

「表面がツルツル、正常部位との境界が明瞭な紅斑」です。
この場合、病変は表皮・真皮・皮下組織のどこにあるでしょうか?
復習になりますが、この場合の病変は真皮にあります。
表皮の病変でないため、表面はツルツルになります。赤みは真皮の毛細血管の血流増加を反映しています。
また、正常/異常部位の境界が明瞭であることは真皮の病変を表すのでしたね。

一般的に薬疹も真皮の病変ですので、主治医の考えと矛盾はありません。
※真皮に出現する紅斑は薬疹以外にも感染症や膠原病が原因となります。しかしながら、一般的に入院患者に出現する紅斑の原因は薬疹の頻度が最も高いです。
そのため、まずは薬疹を考えて対応します。
被疑薬はどれか?
薬疹には即時型反応と遅延型反応がありますが、今回はどちらが考えられるでしょうか。
それぞれ発症および改善するまでの時間が異なるのでしたね。
皮疹は1日以上持続していることから、即時型反応ではなく、遅延型反応が疑わしいということになります。入院してから新規に開始した薬剤は以下の通りです。
妥当かどうかはともかく、元々服用されていたエナラプリルは皮疹が出現したdayX+5に中止されています。
被疑薬は何が考えられるでしょうか?
ここで遅延型反応の復習です。

遅延型反応は①感作相と②惹起相の2段階を経て発症します。①感作相には最低でも4日かかります。
そのため、新規開始薬剤であれば3日以内に遅延型反応を起こる可能性は低いということになります。
本症例ではSBT/ABPCとVCMが入院後に開始となっています。
過去の使用経験がないならば、皮疹の前日に開始したVCMが遅延型反応を起こす可能性は非常に低いといえます。投与速度も1000mg/1hr以下で行っており、レッドネック症候群も否定的です。
一方で、SBT/ABPCは5日間投与しており、感作成立期間を満たしていることから、こちらは被疑薬になりえます。
ちなみに、エナラプリルについては少なくとも3年は使用しているとのことでした。数年経って薬疹が起こることもあるとされていますが、頻度としては低いでしょう。
以上から、SBT/ABPCが被疑薬として疑わしいのではないかと考えられ、中止して経過をフォローすることを主治医と相談しました。
痰培養からはMRSAが検出されているため、VCMは治療に必要である一方、SBT/ABPCは必須ではありません。
注意事項として、遅延型反応の場合は重症薬疹への移行が心配されるところですが、見た目では分かりづらいため随伴症状に注意する必要がありました。具体的には以下です。
その後の経過
本症例では誤嚥性肺炎の影響か発熱はありましたが、VCM開始後速やかに解熱が得られました。粘膜病変や肝障害はなく、1週程度で皮疹は改善が得られました。
エナラプリルは改めて再開となりましたが、皮疹の出現は認めていません。
余談ですが、薬疹の発生率、原因薬剤を調べたものがこちらになります。
抗菌薬、抗てんかん薬、解熱鎮痛薬が多いことが分かります。使用頻度が多いということもあるかもしれませんが、特に抗菌薬と解熱鎮痛薬には注意が必要です。
もう一つ補足ですが、薬疹を診断するための検査があります。
どの検査も陽性率が高くはなく、薬疹と診断できないことがあることに注意が必要です。
最後に、遅延型反応のフローチャートを振り返ると↑になります。
理屈通りに行かないこともありますが、基本的な考え方を身につけておきましょう。
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