本記事では臨床推論の概略と、薬剤師が学ぶべき理由について説明します。
臨床推論とは?
臨床推論とは何でしょうか?
簡単に言うと、「症状から疾患、病態を探るための考え方」のことです。
皆さんは薬の勉強と並行して疾患のことも学んでいると思いますので、疾患名からどのような症状が起こるかは想像が出来ると思います。
例えば、心不全であれば息苦しさ、浮腫などでしょうか。
一方で、浮腫を訴える患者さんを見たときに、原因が何かを考えることはできますか?
なかなか難しいのではないかと思います。
浮腫というのは心不全に特異的な症状ではありません。便秘でも起こりますし、Ca拮抗薬でも起こる可能性があるため、しっかり情報収集を行って原因を考える必要があります。
副作用の評価においても同じことが言えます。
患者さんから「副作用かもしれない」と症状を訴えられた際に、それが本当に薬の副作用なのか、あるいは薬以外の影響なのかを考えなければなりません。
当たり前の事ではありますが、実際にできるかと言われると、難しく感じる方が多いのではないでしょうか。
臨床推論は診断ではないのか?
冒頭で述べたように、臨床推論とは「症状から疾患、病態を探る方法論」のことで、上述の問題を解決するためにあります。一方で、「それは診断ではないのか?」と質問されることがあります。
結論からいうと診断ではありません。というよりも、診断も臨床推論の一部です。
診断とは「患者から情報を集め、病名を決定すること」ですが、臨床推論はそれも含めた大きな概念です。薬剤師としては、たくさんある患者情報を分析・解釈して薬効のモニタリング、緊急性の評価などに用いることが求められます。
下図を参照してください。
薬剤師が臨床推論を学ぶ意義
改めて、薬剤師が臨床推論を学ぶ意義としては以下の3点と考えています。
薬剤師の役割として、緊急性の評価や、薬効・副作用のモニタリングがあります。これらの業務を適切に行うためには、人体の解剖学と生理学について学ぶことが必要、という点を強調しておきます。
薬のことだけ詳しくても、いずれ手詰まりになることは臨床を経験した方は分かりますよね。
薬物療法と解剖生理、どちらも学ぶべきことではありますが、両者には特徴の違いがあります。結論から言うと「今後も変わり得るかどうか」です。
例えば、↓をご覧ください。
かつて、ICU患者の血糖値は厳しめ(80-110mg/dL)に管理した方が生命予後を改善できるとする報告が、かの有名なThe New England Journal of Medicine誌に掲載されました。
ところが、その報告から8年後、同誌から真逆の報告がなされました。
血糖管理は少し緩めの血糖管理(≦180mg/dL)とした方が死亡率が低いという内容で、これまでの治療内容が大きく変わるものでした。
何が言いたいかというと、「今正しいとされていることが、今後も正しいとは限らない」ということです。薬物治療は今後も変わり得るものとして認識をしておくべきです。
一方で、解剖生理は普遍的な内容であり、今後も大きく変わることはないでしょう。つまり、一度勉強しておけば今後長きに渡って活用することができるということです。
薬物治療と解剖生理、どちらも学ぶべきことではありますが、それらが「今後変わり得るかどうか」を意識しておくことは案外重要ではないかと考えています。
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