本記事では臨床推論の実践として、風邪を例に説明します。ドラッグストアで相談を受けた場合を考えてみましょう。
咳と痰が出ていて、熱もあります。風邪でしょうか。何か効く薬はありますか?
風邪とは急性の上気道感染症であり、ウイルスが原因であることが知られています。ウイルスに対して抗菌薬は無効です。そのため軽症の風邪であれば感冒薬を販売し経過観察で対応することが可能でしょう。しかし、細菌感染であれば受診を促し、重症度に応じて抗菌薬を投与することが必要になります。
では、目の前の患者に抗菌薬が必要かどうかはどのように判断すればいいでしょうか?
主訴(発熱、咳嗽、喀痰)の原因がウイルスか細菌かどうかを評価すればよさそうですね。特に基礎疾患のない若年女性ですし、ぱっと見普通に風邪かな?と思われるでしょうか。
「風邪」とは?
最初に風邪の特徴について踏まえておく必要があります。
改めて、風邪とはウイルスによる上気道感染症です。ほとんどの場合自然治癒しますし、抗菌薬は不要、対症療法のみで充分です。
厚生労働省の「抗微生物薬適正使用の手引き第3版」を参照すると、①鼻症状、②咽頭症状、③下気道症状を「同時にかつ同程度」訴える場合は風邪と診断すると記載があります。
なぜそうなるかというと、ウイルスと細菌の特徴の違いが参考になります。
ウイルスは多領域に及ぶ症状を来すのに対し、細菌は「1細菌1臓器の法則」があります。
原則として単一臓器には1種類の細菌しか感染しません。また、細菌性の副鼻腔炎(鼻)、咽頭炎(咽頭)、気管支炎(下気道)が併発することも現実的にはまずありません。極端な免疫不全であれば別かもしれませんが、通常はウイルス感染を先に考えます。
上図のようなイメージです。鼻症状、咽頭症状、下気道症状が同時に同程度存在する場合は、ウイルスが原因の風邪と考えてよいでしょう。
風邪かどうか判断するには何を質問する?
改めて、冒頭の症例に戻ります。本患者は熱と下気道症状を主訴として訴えています。
風邪かどうか判断するには、咽頭症状と鼻症状もあるかどうか確認すればよいわけですね。このような質問をするといいのではないでしょうか。
のどの痛みはありますか?鼻水、鼻づまりはありますか?
咽頭症状、鼻症状を伴っていればウイルスが原因の風邪と考えることができ、抗菌薬は不要と推測できます。重症でなければ対症療法として解熱剤や抗ヒスタミン薬の使用を勧めることができそうですね。
「閉じた質問」と「開いた質問」
今回のケースから学ぶべきこととして、「閉じた質問」が臨床推論において重要ということです。我々が行う質問には「開いた質問」と「閉じた質問」があります。
患者が自由に回答でき、会話が続けやすいのは「開いた質問」です。一方で、内容は患者の話したいこと、聞いてほしいことに偏りがちという側面もあります。
「閉じた質問」は一言で回答でき、会話の導入に使いやすいものの、あまり多用すると質問攻めされているような気持ちにさせてしまうかもしれません。
しかしながら風邪の例でも分かるように、臨床推論に有用な質問は「閉じた質問」です。解剖生理を理解したうえで、必要に応じて適切なタイミングで「閉じた質問」を行うことが重要と考えられます。
一つ例を挙げます。
のどが痛いと訴えています。しかし、原因はのどかもしれませんし、のど周囲にある甲状腺や、頸動脈・椎骨動脈かもしれません。
どのように質問をすればよいでしょうか?
一例として、「唾を飲み込むと痛いか?」(嚥下時痛があるか?) です。
痛いのであれば、唾が通過しているのどが原因でしょうし、痛くないのであればのど以外が原因かもしれない、となります。この質問も「閉じた質問」ですね。
最後に一つ注意点として、最終的に風邪かどうかを診断するのは医師です。
薬剤師が臨床推論を行う目的は診断ではなく、あくまで医薬品の適正使用の推進であることに留意しておきましょう。直面する場面としては、薬局やドラッグストアで健康相談を受けた際が現実的でしょうか。セルフメディケーションが推進されているなか、普段の患者とのコミュニケーションについて再考するきっかけとなればと思います。
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