これについては非常に難しい問題で、総合的に考える必要があると思われます。まずはこの2つの推算式がどのようにして作られたのか、その背景を見ていきましょう。
Cockcroft-Gault式算出の背景
一般に用いられているCockcroft-Gault式を掘り下げてみます。
この式はカナダの在郷軍人病院の男性入院患者249名より作成されています。
女性が入っていませんが、当時の疫学調査で女性のクレアチニンが男性に比べて10-20%低値であったことから、女性で0.85倍することとしていますが強い根拠はありません。
母集団のデータをまとめたのが上表になります。
18-92歳と幅広い年齢層の患者が分布しています。注目すべきは、加齢に伴い実測Ccrや尿中のCr排泄量は確実に低下しているのに対し、血清Cr濃度は必ずしも上昇していないことです。
つまり、この式の母集団には筋肉量の低下した寝たきりの患者も一定数含まれていたことが示唆されます。
eGFR算出の背景
次に、eGFR (推定糸球体ろ過量) について触れてみます。
eGFRには標準eGFRと個別化eGFRの2種類があります。標準化eGFRは170cm, 63kg, 1.73m^2と日本人の平均的な体格に補正されたもので、カルテの検査報告書に載ってます。
痩せた小柄な方であれば過大評価してしまいますし、体格の大きい肥満の方などでは過小評価しますので、原則腎機能評価に用いることはありません。しかし、CKDの重症度評価に用いられていることは覚えておきましょう。
標準化eGFR(mL/min/1.73m^2)を1.73で割り、実際の体表面積を掛けることで個別化eGFRを求めることができます。腎機能評価に用いるのはこちらです。
標準化eGFRの式は日本人413名から実測イヌリンクリアランスを測定することで作成されました。算出式は複雑ですが、自分で計算することはありませんので安心してください。
イヌリンクリアランスの測定は最も正確に腎機能、糸球体濾過量を測定できますがプロトコルが大変煩雑です。
具体的には上図のようになります。少なくとも2回の強制飲水、採血などをこなす必要があり、ある程度元気な方でないと行うことは難しいでしょう。
つまり、CG式に含まれていたような寝たきりやフレイルの患者はこのプロトコルに含まれていないであろうことが推測できます。
CcrとeGFRの関係
CG式で求めたCcr=eGFRが成り立つかというと、そうではありません。
クレアチニンは糸球体濾過の他にも尿細管からの分泌を受ける為、クレアチニンクリアランスはGFRより値が約20%高くなります。CG式で求めたCcr(酵素法)を0.789倍するとGFRに近似することができるとされています。
また、クレアチニンの測定方法は「酵素法」と「Jaffe(ヤッフェ)法」が存在します。酵素法は正確ですが、Jaffe法ではクレアチニンだけでなくビタミンCやピルビン酸にも反応するため、酵素法と比べて0.2mg/dL(約20-30%)高くクレアチニンが測定されてしまいます。
つまり、酵素法で測定したCcr>Jaffe法で測定したCcrとなり、約20%の誤差があります。酵素法で測定したクレアチニンに0.2を加えると、Jaffe法で測定したクレアチニンとほぼ同等とみなすことができます。
まとめると、個別化eGFR ≒ CG式で求めたCcr(Jaffe法) ≒ CG式で求めたCcr(酵素法)の0.789倍 が成り立ちます。現在使用されているのは酵素法ですので、腎機能評価時は
個別化eGFR ≒ CG式で求めたCcr(酵素法)の0.789倍
を覚えておくといいでしょう。
CcrとeGFRの使い分け
上のグラフをご覧ください。今まで紹介した3つの推算式それぞれについて、身長・体重・クレアチニンを固定したうえで年齢のみ動かしています。
若年においてはCcr>個別化eGFRが成立していますが、ある程度高齢になってくると個別化eGFR>Ccrと逆転していることが分かります。これは推算式の限界で、大多数に当てはまるような式を作っても、例外はどうしても生じてしまいます。
高齢のフレイル患者は入院患者に多く見られると思います。このような患者さんの腎機能を評価する際、それぞれの指標が作られた背景を比べると、eGFRよりもCcrの方がフレイル患者の特徴に合っていると言えます。
イメージとしては以下になります。
あくまでイメージですが、推算式の母集団を考えると↑のような使い分けを考慮してもよいのかもしれません。あくまで薬剤の特性や、患者の病態なども加味しつつ、総合的な判断をすべきです。
腎機能評価は考えることが多く難しいのですが、腎排泄薬剤の有効性と安全性を高めるためには非常に重要です。
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