本記事では、時間経過に注目した薬疹の評価方法について説明します。
前提として、薬疹には「アレルギー」によるものと「薬理作用」によるものがありますが、ここではアレルギーによるものについて解説します。
薬疹の分類
アレルギーには4つの型があり、それぞれ機序が異なります。(GellとCoombsの分類)
アレルギーによる薬疹はどの型に分類されるのか見ていきましょう。
一般的に薬疹はⅣ型アレルギーが最も多いです。まれにアナフィラキシーで有名なⅠ型アレルギーが起こりえますが、基本的にⅣ型アレルギーで起こるものだと認識してください。薬剤性の皮疹は即時型(Ⅰ型)アレルギーと遅延型(Ⅳ型)があり、頻度は遅延型>>即時型です。
薬疹は主にⅣ型アレルギー反応によって引き起こされます。これは遅延型過敏反応とも呼ばれ、最も一般的な薬疹の原因です。まれに、アナフィラキシーで有名なⅠ型アレルギー反応(即時型過敏反応)によって薬疹が起こることもありますが、遅延型(Ⅳ型)アレルギー反応の頻度の方が即時型(Ⅰ型)アレルギー反応よりも圧倒的に高いです。
遅延型(Ⅳ型)はT細胞によるサイトカイン産生が原因で、即時型(1型)は肥満細胞によりヒスタミン産生が原因と言われています。
即時型と遅延型のちがい
それぞれ即時型、遅延型というだけあり、抗原(薬剤)への暴露からアレルギー発症までの時間が異なるのがポイントです。
即時型反応では、薬剤への暴露から15分以内にアレルギー症状が出現するのに対し、遅延型反応では少なくとも半日かかります。
例えば上図の場合、皮疹を発症した直前に薬剤Bを、前日に薬剤Aを使用しています。即時型反応であれば薬剤B、遅延型反応であれば薬剤Aが疑わしいということになります。
一般的に薬疹は遅延型反応が多いと述べましたので、確率論では薬剤Aが関与している可能性が高いということになります。直前に使用した薬剤Bが気になるところですが、実際の頻度としては低いです。
皮疹発症までの時間だけでなく、皮疹消失までの時間にも差があります。
即時型反応では数時間で消えるのに対し、遅延型反応では24時間以上持続するのがポイントです。皮疹が出現する前だけではなく、出現後の経過に注目することも重要です。
では、それぞれの反応について詳しく掘り下げてみます。
即時型反応の特徴
まず、即時型反応についてです。
即時型反応のは抗原への暴露により、肥満細胞がヒスタミンを遊離することで起こります。
ヒスタミンは毛細血管を拡張させ、血漿成分を血管外へ漏出させます。皮膚表面上は膨疹(蕁麻疹)と呼ばれる虫刺されのような所見が出ることがあります。肥満細胞より遊離されたヒスタミンは数時間で消失するため、即時型反応による皮疹は速やかに改善します。
一般に膨疹(蕁麻疹)の原因は良く分からないことが多いです。アレルギー以外(感染・ストレス・疲労)によるものが9割を占め、薬剤や食物によりⅠ型アレルギーは1割に満たないことが報告されています。
薬剤によるⅠ型アレルギー、つまり膨疹(蕁麻疹)の頻度は少ないと述べましたが、そもそも膨疹をみたときに、薬剤が原因かどうかも怪しいということは覚えておいてください。
膨疹(蕁麻疹)自体はすぐに消失し、また緊急性も低いのですが、アナフィラキシーショックでないかどうかの確認は必要です。
アナフィラキシーとは、「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与えうる過敏反応」と定義されます。(日本アレルギー学会)
皮膚症状のみならず、循環、気道/呼吸、消化管症状がないか注目します。診断基準は下図のようになっていますが、詳細はガイドラインを参照してください。
アナフィラキシーの3大原因は食べ物、薬剤、虫咬傷であり、特に原因薬の静注から心停止までの時間は5分と報告されています。
対応のフローチャートは上図にようになります。
アナフィラキシーである場合は速やかにアドレナリンの筋注を行います。
遅延型反応の特徴
次いで、遅延型反応についてです。
遅延型反応の機序はやや複雑で、①感作相、②惹起相の2段階を経て発症します。
①感作相…T細胞が抗原(薬剤)の情報を記憶します。これには4-21日かかると報告されています。
②惹起相…抗原の情報を記録したT細胞が再度抗原に出会うと、サイトカインの産生を介して半日~数日後に皮膚症状を来します。
新規開始薬剤はまず感作相を経る必要があります。感作相には少なくとも4日かかることを考えると、今まで使用したことの薬剤が3日以内に薬疹を来す可能性は非常に低いといえます。
過去に投与したことがある薬剤であれば、既に感作相を終えているため、一度の使用で薬疹が生じえます。そのため、薬歴をしっかり確認することが重要です。
遅延型反応は即時型反応と異なり、改善まで1週程度要します。8割は軽症ですが、2割程度はステロイド投与を要する重症薬疹である可能性があります。
皮膚科医につなげるために、我々としては重症薬疹の徴候がないかを見逃さずに拾い上げることが重要に思います。
重症薬疹の徴候を見逃さないために
重傷薬疹の徴候は見た目では分かりづらいため、随伴症状に注目します。
代表的なものは↑になります。全てに共通している発熱の有無をはじめ、粘膜病変や肝障害、血球異常に注意が必要です。
遅延型反応の対応をまとめると↑のようになります。
重症薬疹でないことを確認したうえで、基本的には薬剤中止での対応になります。高齢者では特に多剤併用のケースが多いため、被疑薬を見逃さないようしっかり薬歴を時系列に追っていくことが重要です。
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