前回の記事を要約すると、「血圧が低下する前に脈拍数が増加するので注意しよう」ということでしたね。今回は脈拍数と心拍数の違いについて説明します。
収縮期・拡張期にはそれぞれ何が起こっている?
今回は心臓側から注目します。心臓の周期(心周期)は収縮期と拡張期から成ります。併せて1拍です。「心室」が収縮しているときを収縮期、「心室」が拡張しているときを拡張期と呼びます。
心室を強調した理由は、心室と心房は逆の動きをしているためです。収縮期に心房は拡張、拡張期に心房は収縮します。心室の方が心房よりも重要度が高いため、心室の動きをメインに名付けられているのだと思われます。
収縮期には心室が収縮し(心房は拡張)、全身に血液を送っています。一方拡張期には心室が拡張し(心房は収縮)、心室に血液を貯めこんで次の収縮期に向けて準備をしていると共に、冠動脈に血液が流れています。冠動脈は心臓自身に酸素を送る動脈でした。
収縮期には心臓が収縮しているため、心臓に埋め込まれた冠動脈も収縮しています。ですので収縮期に心臓自身が栄養を送られることはありません。
心拍数が変動しても収縮期の時間はほぼ変わらない
心臓以外の臓器は収縮期に栄養を取り込み、心臓は拡張期に栄養を取り込んでいるというイメージです。
ここで踏まえておくべきこととして、「心拍数が変動しても、収縮期の時間はほとんど変わらない」ということです。心拍数が変動すると、拡張期の時間が主に変動します。
例えば、心拍が80→160回/分へ変動した場合を考えてみます。先程述べた通り「心拍数が変動しても、収縮期の時間はほとんど変わらない」ですので、拡張期の時間が短くなっていることが分かります。ところが拡張期は心臓自身が栄養を摂る時間です。心拍数が速い=拡張期が短い=心臓に栄養が行かないということになります。
以上から、頻脈が続くことは心機能の低下につながります。
また、拡張期には次の収縮に向けて心房→心室に血液を貯めこんでいます。
拡張期の時間が短くなると、全身に送るべき充分な血液を貯めることができません。この状態で収縮しても空打ちになってしまいます。全身には血液は送られず、脈としても触れません。
心拍数と脈拍数の違い
従って、心拍数と脈拍数の違いは↓になります。
心拍が脈拍につながるかどうかは、充分な拡張期が確保されているかどうかによります。
特に期外収縮や心房細動などの不整脈では、急な収縮が起こることで拡張期が短くなることがあり、心拍と脈拍の解離が起こる可能性があります。
心拍数は教科書的には「60-100回/分」が基準値となります。ところが我々が臨床で遭遇する高齢者は刺激伝導系の機能が低下しており、徐拍傾向を示すことも多いです。私見も入っていますが、大体50-100回/分であれば正常とみなします。
心拍数が100回/分を超えることを頻拍(Tachycardia:タキカルディア)と呼びます。(医療スタッフからは「タキってる」と略して言われたりします。)逆に心拍数が50(あるいは60)回/分を下回ると徐拍(Bradycardia: ブラディカルディア)と呼びます。(なぜかブラってるとは言われません。)
心拍数に影響を及ぼす薬剤
大学の薬理学では心拍数に影響を及ぼす薬剤について学んだかと思います。
シロスタゾールやテオフィリンなどPDE (phosphodiesterase) を阻害する薬は細胞内cAMP濃度を上昇させ、心筋収縮力増強をもたらして頻脈を引き起こすことがあります。
また、心臓にある交感神経のβ1受容体を刺激するβ刺激薬やカテコラミン、副交感神経のM2受容体を遮断する抗コリン薬も頻脈につながります。これらは見方を変えると拡張期の時間を短縮させることとも言えます。
その逆でβ-blockerやM2受容体を刺激するコリン作動薬は徐脈をきたし得ます。心筋のCaチャネルを遮断するCaチャネル拮抗薬や房室結節抑制作用のあるジゴキシンも徐脈に繋がります。これらは拡張期を延長しているとも言えます。
これらの薬剤使用時には心拍数などのバイタルサインに異常がないかモニタリングし、副作用を評価しながら使用する必要がありますね。
特に頻用されるCaチャネル拮抗薬については別記事で解説していきます。
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