本記事では心電図波形のPQ部分に注目し、その意義について考えていきます。
房室結節がP波とQRS波のタイムラグを生み出している
前回までの記事で正常波形の成り立ちについて説明しました。
P波は心房の脱分極、QRS波は心室の脱分極を表すのでした。
改めて考えると、これらは本来電気信号ですので、伝わる速度は非常に速いです。
つまり、P波とQRS波はほぼ同時に発生してもおかしくはありません。
ただ実際は、P波とQRS波はPQ部分を介して離れており、心房の収縮と心室の収縮にはタイムラグができています。
これは非常に重要で、心房と心室の間にある房室結節の働きに因ります。
あえて強調すると、房室結節は心房から心室への電気信号を「わざとゆっくり」伝えています。その理由を見ていきましょう。
房室結節の働き➀ タイムラグをつくり心臓の機能を効率化する
心室は心臓のポンプ機能を担っています。心室が最も効率よくポンプ機能を担うためには、心房はどのタイミングで動けばよいでしょうか?
正解は以下になります、
①血液を心房に貯めておき、心房が収縮し一気に心室に送り込む
②心室は心房から送られてきた血液を全て取り込んだ後で、収縮し全身へ血液を送る
心房と心室のリズムが取れていないと、心室はいつ収縮してよいか分かりません。極端な話、心房と心室が同時に収縮したらどうなるでしょうか。
血流はぶつかりあって逆流するため、非常に効率が悪いですよね。
心房が脱分極し、血液を全て心室へ送り込んだ後で、心室が脱分極します。
この間の時間差が必要になります。
少し回りくどい説明になりましたが、心室のポンプ機能を最も効率よく発揮するために、房室結節は心房からの電気信号を「わざとゆっくり」時間をかけて、心室に伝えています。
心電図上はPQ間隔が該当します。200ms (5mm)未満が正常です。
ここまでをまとめると↓になります。
房室結節の働き② 上室性頻拍から心室を守る
他にも房室結節の重要な働きとして、上室性頻拍から心室を守ってくれるという点があります。
上室とは心室より上流という意味で、房室結節や心房のことをまとめて上室と表現します。
上室性頻拍の例として、心房細動があります。
心房細動では、心房内で350回/分以上の脱分極が起こっています。
仮にこの電気信号が全て心室へ伝わってしまうと、心室細動となります。
心室で1分間に350回以上の脱分極が起こっている状況は想像がつきますでしょうか。
心室はほぼ痙攣しており、有効な心拍出はありません。心室細動=心停止です。
心房細動→心室細動としないために、房室結節が関所として働いています。
具体的に、房室結節には不応期があり、一度心房からの電気信号を通すと一定期間電気信号をブロックしてくれます。
房室結節=駅の改札のようなイメージです。渋滞を上手くコントロールしています。
ちなみに、ヒトに限らず魚類や爬虫類においても房室結節は存在し、心房と心室を分けています。
余談ですが、かつて爆発物を水中で爆発させ、気絶した魚を回収するダイナマイト漁が行われていたようです。これは魚類の房室結節の機能が不十分であることを利用していたのかもしれません…(今は禁止されています)。
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