突然ですが問題です。水を飲むという行為と同等の点滴治療はなんでしょうか?
正解は「c」で間違いではありません。でも「e」も正解とも言えます。
ずるいって!
ごめんねー。でもこれを読んだらこんな答えになる理由がきっと分かってもらえるから…!
輸液と経口の水分補給はどこが同じで、何が違うのでしょうか?この記事では、そもそも輸液とは何か?を学び、基本となる水分補給について解説していきます。
そもそも輸液とは何?
輸液とは、「50mL以上の液体を血管内に投与すること」をいいます。その目的は、①体液管理、②栄養療法、③その他に大きく分けられます。
輸液製剤の中でも基本となる生理食塩水と5%ブドウ糖液は、それぞれ細胞外液と細胞内液を補充します。また、維持液であるソルデム3Aは、細胞外液と細胞内液を均等に補充します。
これらを投与する目的は何でしょうか?これらの輸液は水とNa以外の成分はほとんど入っていないため、目的としては①体液管理となります。②栄養投与を目的とする輸液については、以降の記事で深く触れていきます。
そもそもですが、我々健常人は輸液療法を行う必要はありません。我々は経口摂取を通じて必要なものを身体に取り入れているためです。
一方で、病院には体調が悪く経口摂取がままならない方もいるわけで、そういった方を対象に一時的に輸液療法を行っていますが、患者が回復した後は、口から必要なものを摂取してもらう必要があります。
それでは、最も補充が必要な物質とは何でしょうか?
最も必要なものは「水」
以下にヒトを構成する要素TOP3を示しました。当然ながら、最も多い要素は水です。
実際、ヒトは食べ物がなくても2-3週間生きられるとされていますが、水がないと3日しか生きられないとされています。「ヒト≒水」であるともいえます。
水はどれだけ飲めばいいの?
一般に、ヒトの身体を出入りする水分は以下の要素から成り立っています。
約2.5Lの水分が出入りしていることが分かりますが、あくまで一般論です。理想としてはIn=Outとなる投与量が理想ですが、現実問題としてこれらの値を毎日算出することは不可能です。
実際は簡易的に、「30-40mL/kg/日」の水分が体液の恒常性を維持するために目安とされています。静脈栄養輸液を設計する際も、この量を目安にすることが一般的ですので、覚えておきましょう。
輸液量が適切かどうか、「30-40mL/kg/日」を参考にして見てみようかな!
いいっすね~。腎不全患者や心不全患者では水分制限が必要な場合もあります。これについてはまた別の記事で触れますね。
水飲むのと5%ブドウ糖点滴、何が違う?
ここで、冒頭の問題に戻ってみましょう。
冒頭で、「c」も間違いではない一方で、「e」も正解とも言えると書きました。
水を飲むと、体内に細胞内:間質:血管内=8:3:1(やさい)の比率で行きわたります。ナトリウムが含まれていなければ水は細胞内外を自由に行き来できるため、体内の水分分布の比率に従います。
5%ブドウ糖を投与した時もこの比率で分布するため、「c」も間違いではない、と言えるのです。詳しくはこちらの記事に書いています。
一方、5%ブドウ糖500mlには、25g (100kcal) のブドウ糖が含まれています。これは浸透圧を持たせ溶血を防ぐために配合しており、点滴する以上失くせないものです。おにぎり約0.4個分で、健常者にとっては大した量ではありません。
しかし、点滴を行う対象は健常人ではなく高齢者の方がほとんどですので、この違いを認識しておく必要があります。その意味では「e」も正解とも言えるのです。
例えば、糖尿病の既往があったり、感染症に罹患していると血糖値が上昇しやすい状態にあるといえます。過度の血糖上昇は浸透圧利尿を引き起こすため、自由水の補充という目的が達成できない可能性もあります。
5%ブドウ糖は速度に注意
1点覚えておきたいのが、ブドウ糖の投与速度です。
血糖値 200mg/dL以上を高血糖とした場合に、5mg/kg/分以下の速度でグルコースを投与した場合に高血糖の出現率は7%であった一方で、5mg/kg/分以上の投与速度では49%との報告があります。(Rosmarin DK, et al, Nutr Clin Pract, 11, 151-156, 1996.)
以上から、一般にブドウ糖の投与速度は5mg/kg/分以下とすることが求められていますが、術後や感染症などの侵襲時は耐糖能が低下しているために、4mg/kg/分以下とすることが望ましいとされています。
5%ブドウ糖液程度であれば問題はないことがほとんどですが、栄養輸液を投与する場合はより注意が必要になる可能性が高いため、薬剤師としてはこの点を留意しておく必要があります。
カフェイン入り飲料は水分補給に向かない
水分摂取量がわかったところで、注意点を説明します。
我々が好む飲料水にはカフェインが含まれていることが多いですが、カフェインには利尿作用があるために、水分補給には向いていません。
ヒトによって感受性も異なるため、何mgまでなら許容できるか?という線引きは難しいことが多いです。高齢者は脱水を来しやすく、特に夏場においては、緑茶、紅茶、コーヒーなどのカフェイン入り飲料水を控えることも必要になる可能性があります。
また、カフェインには利尿作用の他に覚醒作用もあります。カフェインの半減期は4-6時間であり、夕方以降の摂取は不眠の原因になりえます。
夕方以降はカフェインを含まない麦茶やハーブティー、カフェインレスのコーヒーを選ぶことを勧めます。
ここまで水分摂取と輸液との関連および注意点について触れました。
当然ながら、水だけを飲んでいればよいわけでありません。次回以降は塩分摂取について触れていきたいと思います。
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