こんにちは、著者【の】の後輩で薬剤師3年目の「ちゅん」です。
「病院薬剤師に興味があるが、仕事内容ややりがいがよくわからない」「病院に転職したいが仕事内容のイメージがわかない」といったお悩みはないでしょうか?
この記事では病院薬剤師に特徴的な「病棟業務」のやりがいについて、急性期病院3年目の立場から紹介してみようと思います。
病棟業務って何をするのか?
病棟業務の本質は「安全かつ効果的に薬が使用できるように管理する」ことだと思います。薬の物質的特性や薬物動態といった視点から薬物治療を見る存在がいると医療の確実性がより高まりますよね。
具体的に何をしているかというと
- 初回面談(薬剤アレルギーの有無確認、使用している内服薬内容が適切か確認)
- 処方された薬の用法・用量・相互作用等の監査
- 服薬指導・薬剤についての詳しい説明
- 薬の効果・副作用のモニタリング
- 退院後適切な服薬ができるように確認
- 医療スタッフからの薬に関しての質問に対応
といった仕事をしています。
病棟業務でやりがいを感じた時
上のようなことをやってます…と聞いても、具体的に仕事の内容をイメージするのは難しいかもしれません。そこで、具体的に「楽しい!」と思った瞬間を挙げてみようと思います。
副作用の兆候を発見して重篤化の回避につながった時
薬理学と病態の知識を生かして副作用の兆候を見つけ、提案を行った例を紹介したいと思います。
肺がんの胸水に対してループ系利尿薬のアゾセミドが開始になったことがあります。アゾセミドは持続効果が高い強力な利尿薬ですが、副作用としては電解質異常(低ナトリウム (Na) 血症、低カリウム (K) 血症など) があります。薬剤師としては電解質異常が生じていないか、検査値を観察することになります。
観察していると…開始後から血清K値が下がり始め、約2週間後には3.0を下回ってしまいました。低Kは 頻脈性の不整脈につながることがあり好ましくありません。薬剤性以外にKが下がる原因には嘔吐や下痢がありますが、そのような症状はありません。これはアゾセミドの副作用の可能性が高いのでは…と考えて、主治医にK補充やアゾセミドの休薬の必要性を確認することにしました。
その結果、胸水が引けたこともあってアゾセミドは中止になりました。その後すぐ退院されたのでKが回復したかどうかは不明確なのですが、薬剤性の低K血症・不整脈を回避できたかもしれない事例でした。
このように学んできたことを生かして医療に貢献できた実感が得られたら…人間嬉しいものです。
患者さんの不安を取り除いた時
自分が使っている薬はどんな効果があるのか、副作用は何か、飲み合わせは大丈夫なのか、患者さんは不安を抱えるものです。説明を通して患者さんが笑顔になったり安心した表情になるのを見るのもやりがいの一つです。
例えば、こんな質問感じのを受けたことがあります。
この下剤とこの下剤(リナクロチド、センノシド、酸化マグネシウム)は何が違うの?どれが強いの?
酸化マグネシウムは便の中に水分を引き込み、センノシドは腸内細菌によって活性化されて腸を刺激します、リナクロチドは腸内に水を引き込んで便を柔らかくする働きに加えて神経の伝達を抑えて腹痛を改善する効果も知られていますよ。どれが強いかは言いづらいですが、ガイドラインでは酸化マグネシウム→リンゼス→センノシドの順番で加えていく方法が推奨されていますよ。
そうかい。ありがとう。
自分の説明の質や対応を工夫することで、患者さんが薬物治療に前向きになってくれると嬉しくなります。
分からないことを調べて知的好奇心が満たされた時
病院に限らずですが薬剤師は日々知識をアップデートする自己研鑽が求められます。「きつい部分」として紹介されることもありますが、知的好奇心が満たされる楽しい部分でもあると思います。
例えばこんなことを調べています。
レボフロキサシンと酸化マグネシウムが同時に処方されていたからキレート形成で効果落ちる可能性あるってことで服用タイミング変えてもらったけど、どれくらい効果落ちるんだろ
インタビューフォーム・論文検索してみると…
レボフロキサシン 100mg 単回経口投与時に、水酸化アルミニウム(1g)、硫酸鉄(160mg)又は酸化マグネシ ウム(500mg)を併用投与した場合、レボフロキサシンのバイオアベイラビリティーは単回投与に比較し、それ ぞれ 56%、81%及び 78%に減少した。また、Cmax も有意に低下した。 (クラビット錠 インタビューフォームより)
“The AUC of ciprofloxacin (CPFX) is reported to decrease by 79% to 96% by combined use of aluminum- and magnesium- containing antacids.”(Imaoka A, Hattori M, Akiyoshi T, Ohtani H. Decrease in ciprofloxacin absorption by polyvalent metal cations is not fully attributable to chelation or adsorption. Drug Metab Pharmacokinet. 2014;29(5):414-8. doi: 10.2133/dmpk.dmpk-14-rg-001. Epub 2014 May 6. PMID: 24806820. )
酸化マグネシウムとの併用ならバイオアベイラビリティ78%くらいは保たれるのか。今後は急いで問い合わせをする内容ではなさそうかな。水酸化アルミニウムは結構下がるから注意だな~
同じニューキノロン系でもシプロキサシンはAUCが79-96%減弱する可能性があるんだ、(原著論文有料でデータは見れなかったなあ)
このように気になったことを文献で調べて知識を補強し、次の薬学管理に生かしていく楽しさがあります。
ちなみに、著者【の】からはこんな意見もありました。
医師などの他職種から薬学で学びきれなかった部分(解剖や生理など)を教えてもらい、結果薬物療法につなげることができた事例も面白いです。臨床工学技士からペースメーカーや透析のこと、管理栄養士から栄養関連のこと、検査技師から細菌のグラム染色、心電図のこと・・・などです。よくあるのはグラム染色の結果を教えてもらって抗生剤の狭域化につなげた事例でしょうか?
まとめ
病院薬剤師は薬物療法の安全を守る責任を負う仕事であり、もちろん楽しいだけではありません。その中でも医療スタッフや患者さんの役に立てた実感が得られる瞬間があり、知的好奇心が満たされて楽しい瞬間があるのが病院薬剤師の魅力だと思います。
面白そうと思った方、ぜひキャリアの選択肢に加えてみてはいかがでしょうか?
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