こんにちは、弟子のちゅんです。
「甘草は偽アルドステロン症を起こすから注意!」というのは国試でも頻出の話ですよね。頻度が高く、致命的にもなりうる副作用です。
では、偽アルドステロン症を起こしていないかどうかはどのように確認したらいいのでしょうか。
自身の勉強を兼ねてまとめてみました。
偽アルドステロン症とは
アルドステロンが増加していない状態にもかかわらず、高血圧、浮腫、カリウム喪失などのアルドステロン症の臨床症状が再現される状態のことです。
甘草による偽アルドステロン症のメカニズム
甘草に含まれるグリチルリチン酸の代謝産物は、上皮細胞においてコルチゾールの代謝酵素11β-HSD2 (11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素2型)を阻害します。
この阻害によって細胞内のコルチゾール濃度が上昇します。コルチゾールはアルドステロン受容体にアルドステロンと同程度の親和性で結合します。
そのため、11β-HSD2が阻害されるとアルドステロン受容体がアルドステロン濃度に関係なくコルチゾールによって活性化されます。(1
アルドステロン受容体が活性化されるとどうなる?
アルドステロン受容体が活性化される事は「血圧が上がる方向にシフトする事」とイメージできます。Naと水分子の再吸収が促進され、Kの排泄が亢進されます。
注意が必要な場合はどんな時?
甘草を含む製剤の例
芍薬甘草湯 (6g/day) や小青竜湯 (3g/day) 、半夏瀉心湯 (2.5g/day) などに含まれています。添付文書通りに使用しても偽アルドステロン症の報告が多い場面もあり、こむら返りに対して芍薬甘草湯を使用する場合や、高齢者に対して抑肝散を使用する場合などが該当するようです。(1
リスクが高くなる場合の例 (1
高齢者…11β-HSD2の活性がもともと低下しており重症化しやすい
便秘…腸管内でのグリチルリチン酸の滞在時間が延長して代謝産物の吸収量が増える
低アルブミン血症…遊離型のグリチルリチン酸代謝産物の割合が高まる
他の女性や体表面積が小さいこともリスク因子と言われています。
偽アルドステロン症はいつ頃起こりうる?
甘草投与開始から2週間で11β-HSD2活性阻害がほぼプラトーに達することから、甘草増量後2週間~1ヶ月が特に副作用発現に注意したいタイミングのようです(1
また、上記のようなリスクが増えた場合も注意したいですね。
甘草の重複に注意
添付文書上は2.5g/dayが甘草高用量となるため複数の漢方薬を併用している場合は合計の量に気を配る必要がありそうです。市販薬にも含まれていることがあるため、市販薬の使用状況も把握しておきたいところです。
確認すべき項目
偽アルドステロン症を早期発見するためには何を確認したらいいのでしょうか。
血清カリウム値
基準値は3.6-4.9mEq/Lです。(2
偽アルドステロン症ではKの排泄が亢進するため血清カリウム値は低値を示します。甘草を含む漢方製剤使用中の薬学管理では血清カリウム値の確認が重要となるでしょう。
血清カリウム値が低下する要因は経口摂取不足、下痢、細胞内シフト(アルカローシス、インスリン分泌、甲状腺機能亢進症などが要因)、他の薬剤(利尿薬、β2刺激薬など)使用など多岐に渡るため、総合的に考える必要がありそうです。
偽アルドステロン症ではカリウムの腎排泄が亢進するため、尿中K値が高値となります。上記の疾患との鑑別が重要となってきますが、少なくとも尿中カリウム値が低値であれば腎以外の問題と言えるため、確認しておくとよいでしょう。
症状
重篤副作用疾患別対応マニュアルには以下のように記載されていました。
初期症状は、手足のしびれ、つっぱり感、こわばりなど様々であるが、徐々に進行する四肢の脱力や筋肉痛が重要である。臨床症状の頻度は、四肢脱力・ 筋力低下が約 60%、高血圧が 35% で、この2者が発見の契機として最 も多い。(略)他の症状としては、全身倦怠感が 約 20%、浮腫が約 15% の症例で報告されている。ミオパチーによる四肢の 筋肉痛・しびれ、頭痛、口渇、食思不振も多い。(3
上記のような症状がないか聞き取りが必要となりそうです。
バイタルサイン
アルドステロン様の作用により血圧上昇がないかどうか確認します。
その他の臨床検査値
アルドステロン受容体が活性化されると集合管でのH+排泄も亢進するため、代謝性アルカローシスを起こすことがあります。静脈血ガス検査のpHが参考になりそうです。
血症レニン活性とアルドステロンはともに低値となります。体内のアルドステロンが過剰産生される疾患を原発性アルドステロン症といいますが、この疾患を薬剤性の偽アルドステロン症を見分けるためにこの値が有用となります。
まとめ
- 甘草を含む漢方製剤では、グリチルリチン酸の代謝物が酵素11β-HSD2を阻害することでコルチゾールがアルドステロン受容体を活性化し、偽アルドステロン症を引き起こしうる。
- 高齢者や便秘患者などリスクが高い人に注意が必要で、投与開始後2週間から1ヶ月は特に注意する。複数の製剤や市販薬での甘草の重複摂取にも留意が必要。
- 偽アルドステロン症の早期発見には血清カリウム値や血圧などのバイタルサイン、症状の聞き取りが有用。他の疾患と区別するために尿中カリウム値、静脈血ガスや血漿レニン活性などの臨床検査値を総合的に評価することが重要。
参考文献)
1)薬局 2023 Vol.74, No12
2)薬剤師のための薬物療法に活かす検査値の読み方教えます!(野口善令 編) , 羊土社, 2016年
3) 重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症, 厚生労働省
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