本記事では肥満患者の腎機能の評価について解説します。
入院患者ではどちらかというと痩せた方を見る場面が多いかもしれませんが、心血管疾患や糖尿病などで肥満患者に対応することもありえます。
ところで、肥満とはどのように定義されるでしょうか。
日本人においてはBMI≧25を肥満と定義します。尚、欧米においてはインスリンの分泌量が多く太りやすいため、BMI≧30を肥満としています。
腎機能評価の推算式にはCockcroft-Gault式を用いるのでしたね。肥満患者の体重をそのまま代入するとどうなるでしょうか?
肥満患者にCockcroft-Gault式を用いる問題点
この式を見ると、クレアチニンクリアランスと体重が比例するということが分かります。仮に同じ腎機能の人であっても、体重が30kgと90kgでは腎機能が3倍ずれて算出されてしまうことになります。
肥満患者の実測体重をそのままCockcroft-Gault式に当てはめると、往々にして腎機能を過大評価してしまうという問題があります。
Ccr計算に理想体重を使う方法があるけれど…
肥満患者には理想体重を使う、と習った方も多いかもしれません。理想体重は「実測体重ー脂肪」と考えられ、単純に脂肪だけを取り除いた体重というイメージです。
「標準体重」って言うのも聞くけれど、理想体重とは違うの?
標準体重はBMI×22に相当する体重で、一般に疾患合併率が最も低いとされています。標準体重に換算すると過大評価を多少は防げそうですが、一般に標準体重は薬物投与設計に用いられていません。
理想体重の使用によって補正できると思うかもしれませんが、実はある問題があります。冒頭の症例で理想体重を計算してみましょう。
実測体重が120kgに対し理想体重が65.9㎏です。約1.8倍と、それなりに離れています。元々実測体重では腎機能を過大評価していたのですが、理想体重を使うと逆に過小評価してしまうことが知られています。
皆さんの周りにいる肥満患者はどのような方でしょうか?おそらく太っているけれども、日常生活に大きな支障なく生活ができているのではないかと思います。
つまり、脂肪を支えるだけの筋肉も同時に蓄えているということです。一般的な肥満患者の体重は全て脂肪が原因というわけではありません。
肥満患者のCcr計算には補正体重を使う
(実測体重-理想体重) のうち、40%くらいは筋肉になっているという考えに基づいて計算されたのが「補正体重」です。
Cockcroft-Gault式に肥満患者の体重を当てはめる際は、補正体重を使用することが多いです (Bouquegneau A, et al. Br J Clin Pharmacol, 81, 349-361, 2016.)。
冒頭の患者さんは長年の肥満患者で、短期間で劇的に太ったというわけではなかったようです。このような症例では補正体重の使用が適切と思われます。
理想体重を用いるケース
ちなみに、理想体重を用いた方が良いかもしれないケースも存在しますが、どのような症例でしょうか?
一例としてステロイドを使用して急激に体重が増加した場合が挙げられます。同じ肥満患者でもステロイドで急激に体重が増加した場合、体重増加の原因はほぼ脂肪と考えられますので、この場合は理想体重の使用でよいでしょう。
補正体重を使うか、理想体重を使用するかは患者さんの背景をみて考えましょう。
まとめ
- 肥満患者のCockcraft-Gault式計算に実体重を用いると腎機能を過大評価する可能性がある。
- 理想体重は「実測体重から脂肪を引いた体重」で、補正するために使われることがあるが逆に腎機能を過小評価する可能性がある。
- 肥満患者に対してCockcroft-Gault式を使用する際には補正体重が使用でき、特に長期間にわたる肥満患者には適切である。ただし、ステロイドなどで急激に体重が増加した場合には理想体重を使用する方が良い場合もあるため、患者の背景に応じて選択が必要。
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