クレアチニンクリアランス計算して、用量大丈夫だなって思って調剤したら、監査で先輩に止められたんだよ〜
クレアチニンクリアランスが腎機能を反映していない場合があるんだ。どんな時か見てみよう
問題です
まず、下の問題を解いてみましょう。
レボフロキサシンは腎排泄薬剤です。添付文書を参照すると、クレアチニンクリアランスの値に応じて下図の様に投与量を調節します。
クレアチニンクリアランスの算出は、Cockcroft-Gault式を使用するのでしたね。
各パラメータを当てはめると、推算Ccr(クレアチニンクリアランス)=121.5mL/minと算出されますので、減量せずに1日1回500㎎を投与となります。
ところで患者背景に目を向けると、脳梗塞の既往があり、寝たきり患者のようです。
高齢であればある程度臓器機能は低下しているはずで、脳梗塞を起こしていることから動脈硬化は相応に進んでいるはずですが、腎機能の指標である推算Ccrは健康若年成人と変わらない値を示しています。
このまま機械的にCockcroft-Gault式を適用してよいものでしょうか?
血清クレアチニンが低いのは腎機能が良いのではなく…
クレアチニンは筋肉の分解産物です。つまり、本症例のように筋肉量が元々少ない人はクレアチニンの産生も低下していることが予想されます。
実際血清クレアチニン値は0.4mg/dLと低値でしたが、これは腎機能が良いというよりも、筋肉量が少ないことが理由の可能性があります。
Cockcroft-Gault式の分母には血清クレアチニンがあります。そのため筋肉量の低下した痩せ気味の高齢者の場合、腎機能を過大評価してしまう可能性があります。
では、どの様に腎機能を評価すればよいでしょうか?
筋肉量の低下した高齢者の腎機能評価方法
対応としては2点挙げられます。
24時間蓄尿による実測クレアチニンクリアランスの測定
尿中のクレアチニンを測定しますので、最も正確なクレアチニンクリアランスが測定可能です。算出式は上図の通りです。
集中治療室などモニタリングが密に行われており、患者一人当たりに対する看護師のマンパワーが充分な環境であれば蓄尿を行うことは検討できます。
一般病棟においても、尿道カテーテルが留置されている患者であれば問題はないかと思いますが、そうでない場合は患者と医療者双方の負担が大きく、あまり現実的ではありません。
血清シスタチンC濃度の測定
もう1つの対応として、クレアチニンではなくシスタチンCという物質の測定が挙げられます。これは全身の細胞で産生されますので、筋肉量の低下による影響を受けません。
上図の様に、一般にクレアチニンはGFRが30-40mL/minまで低下してこないと上昇しないのに対し、シスタチンCはGFRが60-70mL/minの早期腎障害においても上昇しますので、軽度の腎障害に対してクレアチニンよりも感度が高いといえます。
一方で、GFRが15mL/minを下回るような末期腎不全では血中濃度が頭打ちとなります。その場合、シスタチンCの測定意義は乏しいため、クレアチニンの測定で問題ありません。
改めて、冒頭の症例では血清シスタチンCの測定を提案しました。値をもとにeGFRを計算すると39.9mL/minと算出され、減量が必要であることが分かりました。
算出方法ですが、日本腎臓病薬物療法学会のWebページ(eGFR・eCcrの計算)に値を入力すれば自動で算出してくれます。
リンク→ https://jsnp.org/egfr/ 引用元:日本腎臓病薬物療法学会HP
※シスタチンCの値を入力するとeGFRの値が算出されます。これはCcrに置き換えて解釈して大丈夫です。理由については後日解説します。
シスタチンCについてまとめると上図のようになります。保険上3か月に1度しか測定することができませんが、筋肉量の低下した寝たきり患者に有用である可能性があります。
注意点として、疾患や薬剤によって産生量が変動するため、上に記載した状況に該当する場合は測定精度が落ちることが予想されます。
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