今回の記事では循環の3要素のうち、後負荷について説明します。
後負荷とは何か?
はじめに静脈と動脈の違いについてまとめてみます。
前負荷に該当する静脈は血管内水分量を表すと説明しました。動脈は血管平滑筋が豊富にあり、血管抵抗を生み出すことで血圧を調節しています。静脈が容量血管と呼ばれるのに対して、動脈は抵抗血管と呼ばれます。
後負荷とは、心臓が収縮した直後に心臓にかかる負荷のことです。
注射器を心臓に例えると、針の太さが後負荷に相当します。注射器を押すとき、針が細い方が押しづらく、たくさんの力が必要ですよね。
抵抗が強い状態が後負荷の上昇です。
現場では…後負荷≒収縮期血圧
実臨床では、後負荷は収縮期血圧に近似して考えることが多いです。
収縮期血圧が高い=後負荷が上昇しており、心臓にとっては負担となるため、グラフのように心拍出量が低下します。高すぎる血圧は良くないということです。
後負荷の異常による重篤な例として、高血圧緊急症があります。血圧が高すぎることで心拍出量が低下し、末梢臓器に酸素を送れず、臓器障害を生じます。当然治療としては、収縮期血圧を迅速に下げることが求められます。
【問題】他に基礎疾患がない場合、高血圧緊急症の治療薬剤は何を用いればよいでしょうか?
正解は「Ca拮抗薬」です。速やかな降圧作用を期待する場合は、内服薬ではなく注射薬のニカルジピンを用いることがほとんどです。Ca拮抗薬は静脈よりも動脈を選択的に拡張させ、血圧を低下させます。
というのも、Caチャネルが血管平滑筋に存在しているためです。静脈と動脈の違いを最初に示しましたが、静脈は血管平滑筋が乏しいのに対し、動脈は豊富です。つまり、Ca拮抗薬の作用部位である血管平滑筋が動脈に多いことが選択性の違いを生んでいます。
ちなみに、前負荷の記事で紹介した硝酸薬は静脈を選択的に拡張させるのでしたね。それぞれ対比させて覚えておきましょう。
少し補足すると、Ca拮抗薬には「ジヒドロピリジン系」と「非ジヒドロピリジン系」が存在します。
「ジヒドロピリジン系」は語尾に~~ジピンと名が付くもので、基本的に血管平滑筋のみに選択性を有します。後負荷に対して治療介入をする=血圧を下げたいときは、こちらを使用します。
一方で、非ジヒドロピリジン系薬剤は心臓にも選択性があり、心拍数を低下させる作用があります。特にベラパミルは血管へは作用せず、心臓のみに作用するため、降圧薬ではなく抗不整脈薬として使用されます。ジルチアゼムはジヒドロピリジン系とベラパミルの中間的な位置づけにあり、血管と心臓の両方に作用するため、降圧と心拍数低下作用が得られます。
注意点として、非ジヒドロピリジン系は心抑制作用があり、心収縮力の低下した患者には禁忌です。LVEF<40%では使用を避けた方がよいでしょう。
Ca拮抗薬が浮腫を生じうる理由
Ca拮抗薬の特徴的な副作用として、浮腫が挙げられます。
先ほどCa拮抗薬が動脈優位の血管拡張作用を有していることを説明しましたが、このことが浮腫を生じさせる理由です。ここは少し分かりづらいので、図を用いて説明します。
基本的に血流は圧の高い方から低い方へ移動していきます。動脈側と静脈側の圧の差が血流を生んでいるわけです。また、中心の毛細血管は間質と接しています。
浮腫とは間質の水分貯留と定義されるのでしたね。
Ca拮抗薬を使用すると動脈が選択的に拡張し、平均血圧が低下します。
すると動脈と静脈の圧の差が小さくなり、中心の毛細血管で血流が停滞することになります。停滞した血液により毛細血管内の圧が高まり、間質へ水が漏れることにより浮腫が生じます。ちなみに、この毛細血管内の圧のことを静水圧と呼びます。
Ca拮抗薬による浮腫は作用機序の裏返しになります。このようにイメージで理解すると、覚えやすく記憶にも残りやすいのではないでしょうか。
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