血圧低下への対処方法として血管に存在するα₁受容体刺激薬を使用する方法がありました。
α₁受容体刺激薬の中には、ノルアドレナリンとアドレナリンがあります。この2つ、名前も構造もよく似ていますが使われ方や薬効は異なります。どんな違いがあるのか見てみましょう。
α₁受容体刺激薬が有効な状況とは?
血管収縮力をもつα₁受容体刺激薬が特に有効な状況とはどんな時でしょうか?
血管を締める必要がある病態、すなわち何らかの要因で血管が拡張してしまうような病態が考えられますね。一番想像がしやすいのは「感染症」です。その中でも感染により臓器障害を来している状態を「敗血症」と呼びます。
この病態では炎症性のサイトカインにより末梢血管が拡張することで血圧が低下することがあります。また、感染を生じている部位において炎症性サイトカインや白血球・細菌の死骸によって浸透圧が高まるため、より多くの水分が毛細血管内から炎症部位に流出して血圧が低下します。臨床ではまず補液を行いますが、それでも血圧が上昇しない場合、末梢血管を締めるα₁受容体刺激薬が有効と考えられます。
他に末梢血管が拡張する病態として、「アナフィラキシーショック」があります。いわゆる即時型のアレルギーです。肥満細胞からヒスタミンが分泌され、血管を拡張させるとともに血管透過性を亢進させることで血圧を低下させます。
「敗血症」と「アナフィラキシー」はともに「血管分布異常性ショック」の分類に入ります。血管拡張や血管透過性の亢進が起こっているという点において、感染症とアナフィラキシーの病態は非常に似ているのです。
「血管分布異常性ショック」とは血管透過性が亢進しているために血管内の水分が間質へ漏れてしまっているイメージです。通常血管と間質の水分比は1:3と過去に説明しましたが、この血管分布異常性ショックでは間質の割合が更に増大しています。
このように病態には共通点がありますが、使用されるα₁受容体刺激薬は異なります。敗血症にはノルアドレナリンが、アナフィラキシーショックにはアドレナリンが使用されます。
ノルアドレナリンもアドレナリンも「カテコールアミン」と呼ばれる交感神経の神経伝達物質に分類されます。これらはαおよびβ受容体に結合することで生理作用を発揮します。
カテコールアミンが作用する受容体の種類と反応性
カテコールアミンが作用する受容体の種類と反応は以下の通りです。
また、それぞれの受容体に対する薬剤の親和性を下表に示します。
(成書により記載が異なることもあります。あくまで参考程度にしていただき、実際の薬剤選択は各疾患のガイドラインに従ってください。)
【問題】上の表をみて、敗血症にはノルアドレナリンが、アナフィラキシーショックにはアドレナリンが使用される理由を考えてみてください。
【答え】アドレナリンとノルアドレナリンの違いはβ2作用の有無です。
アドレナリンはβ2作用を有しており、気管支を拡張させます。アナフィラキシーでは気道浮腫が起こりますので、ノルアドレナリンではなくアドレナリンを選択することは理にかなっています。
また、アナフィラキシーにおいては肥満細胞からヒスタミンなどのケミカルメディエーターが放出されることが主な病態ですが、β2刺激はこれらの放出抑制作用もあるようです。(アナフィラキシー ガイドライン 2022より)
β2受容体は血管にも存在しており、血管を拡張させますので血圧上昇という点ではやや不利です。純粋に血管を締めて血圧を上げるという点ではノルアドレナリンに軍配が上がります。そのため、敗血症性ショックではノルアドレナリンを使用します。
また、心原性ショックに用いるドブタミンはβ1作用が最も強力であることもこの表から分かります。
学生の時、どのカテコールアミンががどんな作用を持ってるか覚えるの凄く苦手だったな~。現場で触る薬と併せて覚えるとちょっとイメージしやすいかも!
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