バイタルサイン②~続・血圧~

バイタルサイン
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ぱいせん
ぱいせん

前回に続いて、血圧について学んでいきましょう。血圧は「ホースから出る水の勢い」をイメージしてくださいね。

血圧は3種類

血圧は3種類あり、以下の様に意味合いが異なります。まずは結論から覚えてください。

収縮期血圧は左心室の後負荷を表すと共に、出血リスクにも関係しています。拡張期血圧は冠動脈の血流の決定因子です。冠動脈とは心臓を栄養する3本の動脈のことで、右に1本、左に2本あります。

ここで取り上げたいのが「平均血圧」です。心臓以外の臓器の血流を決める因子とされています。収縮期血圧と勘違いされることが多いですが、収縮期ではなく平均血圧が臓器血流に関係しています。

新人
新人

収縮期と拡張期は聞くけど、平均血圧は初めて聞くかも!臓器血流に関係ってどういうこと?

ぱいせん
ぱいせん

ここは少しややこしいから例えを使ってみていこうか。

臓器血流と関連する血圧…平均血圧

心臓をダムに例えると、ダムから出た血流は川を下って田んぼ(各種臓器)へ流れていきます。

心臓は収縮拡張を繰り返すことで上下の振幅を生みだしており、末梢へ流れていくにつれてこの振幅は徐々に小さくなっていきます。田んぼへ流れ着く頃には血流はほぼ一定になっており、これが平均血圧に相当します。

この図は平均血圧と臓器血流量の関係を表しています。横軸は収縮期血圧ではなく平均血圧です。身体は賢いので、多少血圧が変動しても臓器への血流は一定に保たれます。これを自動調節能と呼び、動脈側の血管平滑筋が収縮・拡張を行うことで血流を一定に保っています。

ところで、血圧が低下するとある地点から臓器血流が低下していくことが読み取れます。この値は一概に線引きが難しいのですが、一般的には65mmHgが目安となることが多いです。実際「敗血症ガイドライン2024」においても、「平均血圧の目標値を65mmHgとすること」が推奨されています。

しかしながら、実際は患者背景によって異なります。例えば慢性的な高血圧下にあり動脈硬化の進んだ高齢者では、以下のように変化します。

青線→赤線へ移動しています。平均血圧65mmHgでは自動調節能が働かず、臓器血流量が低下することが分かります。慢性的な高血圧下では動脈硬化が進行し、血管平滑筋の収縮・拡張が不全となるため自動調節能が低下しやすいのです。健常人と比べ、臓器血流量の低下がより起こりやすいということになりますので、注意が必要です。

我々が日常臨床で遭遇する患者は高齢者が多い為、平均血圧の値だけでは循環不全を評価することが難しいといえます。

臓器血流量はどうやって評価する?

ではどのようにして臓器に血流が流れているかを評価すればよいでしょうか?

結論は「3つの窓」に注目します。具体的には脳、腎臓、皮膚の3つです。

脳、腎臓、皮膚への血流が低下した場合、上図のような症状が現れます。何となくイメージが湧くのではないかと思います。

より理解を深めるために、上図のような状況を正常と仮定してみます。心臓からは100の血流が出ており、それを皮膚、消化管、腎臓、脳へと均等に分配しています。(実際は均等ではありません。あくまでイメージです)

【問題です】もし、心臓からの血流が100→60まで低下したとき、臓器への血流はどうなるでしょうか?

正解はこうです。均等に血流が低下するわけではありません。


身体にとって、脳や腎臓は生命直結性が高いため、皮膚や消化管への血流を切り捨ててでも血流を維持しようとします。血流の再分配が起こるわけです。

実際血圧が低下した際に、消化管はもっとも早く血流が低下する臓器であると報告されています(Br J Anaeth. 2002; 89: 446-451)。集中治療室において、非閉塞性腸管虚血症(NOMI: non-occlusive mesenteric ischemia)などの腸管虚血がしばしばみられるのはこういった理由になります。

さらに心拍出量が低下すると、皮膚・消化管に続いて腎血流が低下します。

腎臓は尿をつくる臓器ですので、尿量が低下します。一般的には0.5mL/kg/hr未満を尿量低下とみなします。これは2倍すると1mL/kg/2hrですので、「2時間で体重×1mlの尿量があればよい」と覚えておきましょう。

腎機能を評価する際は血清クレアチニンが最も頻用されるマーカーになります。ただ、血清クレアチニンは変動するのが遅いです。

イメージとしては「尿量減少」→「クレアチニンが排泄できない」→「血清クレアチニン上昇」といった感じで、尿量低下が直接腎機能低下を表していますが、クレアチニン上昇はその結果生じますので、タイムラグがあるわけです。

逆に考えると、尿量が増えてきた時点で腎機能は回復しています。ところが血清クレアチニンが下がってくるまで待っていると腎排泄薬剤の過小投与に繋がる可能性があります。

つまり、クレアチニンだけを見ていると急性の変動に対して対応が遅れるということです。急性腎障害時は尿量と併せてクレアチニンを評価する必要があります。例外もあるのですが、まずはクレアチニンの変動にはタイムラグがあるということを認識しておくことが重要と考えます。

更に心拍出量が低下すると、最終的に脳への血流が途絶え、意識レベルが低下します。実際には脳の自動調節能は最も広く、平均血圧でいうと60-140mmHgあたりまで対応できるとされています。

以上をまとめると、3つの窓の優先順位は脳>>腎臓>皮膚となります。

臓器への血流保たれているか…まずは皮膚を見る

皮膚への血流は最初に切り捨てられますので、皮膚所見が最初に現れます。具体的には末梢冷感・冷や汗・CRT (毛細血管再充満時間)>2秒、網状チアノーゼなどが生じ得ます。

逆に考えると、皮膚所見が問題ないのであれば、最も優先順位の低い皮膚に血流が流れている=より重要な腎や脳への血流は保たれているだろう、と解釈することもできます。皮膚所見は循環不全のスクリーニングに使用できますので、ベッドサイドで実際に患者に触れるということは重要です。

「3つの窓」と動脈触知

収縮期血圧を推測する方法として、動脈触知があります。

触知が可能な動脈はいくつかありますが、特に上図の3か所については、ある程度の収縮期血圧がないと触れないと報告されています。

最も触れるハードルが低いであろう橈骨動脈は収縮期血圧≧80mmHg、大腿動脈は≧70mmHg、総頚動脈は≧50mmHgとなります。

さきほどの3つの窓の話を振り返ると、最も生命直結性の高い脳へつながる総頚動脈は一番低い血圧でも触れるということですね。

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